相続の限定承認とは?メリットやデメリット、手続きの流れを徹底解説
相続は、実際に経験する回数こそ少ないものの、人生の大きな節目ともなる出来事の一つです。法的手続きや財産の扱いについて、事前の知識や理解がないと混乱を招くことも多々あります。
特に相続対象の財産に借金や複雑な債務が絡む場合、どのように進めるか戸惑うこともあるでしょう。
そのようなときに、リスクを最小限に抑えつつ適切に手続きを進めるための方法として、限定承認という選択肢があります。
本記事では限定承認に焦点を当て、意味や利点、潜むリスク、手続きの流れなどを詳細にわかりやすく解説します。
目次
限定承認とは?
限定承認とは、相続人が受け取る財産の範囲内でのみ相続債務を弁済する方法を選択することを指します。いいかえれば、自分の持っている財産を使わずに、相続した財産だけで債務を清算する方法です。
一般的な手続きでは、相続人は自らの財産も使って債務を弁済しなければならない場合が多いのですが、限定承認を選択することでそのリスクを回避できます。たとえば、故人が多額の債務を抱えていた場合や、不明確な債務があとから発覚するリスクを感じる場合などに、非常に有効となります。
しかし、限定承認を選択することで得られるのはメリットばかりではありません。デメリットや注意点も存在します。それらを踏まえ、最適な相続手続きを選ぶための知識として、以下では残り2つの方法である単純承認と相続放棄についても解説します。
単純承認とは?
単純承認とは、特に何もしないままで相続を受け入れる行為を指します。相続が発生した際に、特別な手続きを行わず相続財産を管理・使用したり、相続債務を弁済し始めたりすると、自動的に単純承認とみなされます。
単純承認の大きな特徴は、財産だけでなく債務も一緒にすべて引き受ける点です。そのため相続人は故人の債務が大きなものであった場合、自らの私財を使って債務を弁済する必要が生じます。
この点は相続を迎える際の大きなリスクとなるため、債務の有無や規模をしっかり確認したうえで、適切な行動を取ることが求められます。
相続放棄とは?
相続放棄とは、財産と一緒に債務を受け継ぐことを避けるために、相続を一切受け入れない選択をする手続きのことです。手続きは、特定の期間内に行わなければならないことが民法915条で定められています。
相続放棄を選択する主な理由としては、相続財産の価値が債務よりも少ない場合や、手続きに関連する時間や手間を避けたい場合などが考えられます。
相続放棄を行った場合、相続権は消滅し、次の相続人に権利が移行するのがルールです。
一度相続放棄を決定してしまうと、あとから変更や取り消しはできないため、十分な情報収集と考慮のうえで決断することが重要となります。
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参考:民法915
限定承認の5つのメリット
限定承認のメリットとしては、主に以下の5つが挙げられます。
- 借金を自分で弁済する必要がない
- 不動産を手元に残せる
- 先買権を行使できる
- あとになって発見された財産も相続できる
- 少人数で相続の手続きを済ませられる
以下で一つ一つ解説します。
借金を自分で弁済する必要がない
第一のメリットとして挙げられるのは、相続人が私財を使用して相続債務を弁済する必要がない点です。限定承認を選択することにより、相続人は相続財産のなかからのみ債務の弁済を行えばよい状態になります。
これが意味するのは、相続人自身の手元の資産や貯蓄を守れるということです。特に、故人が予期せず多額の債務を抱えていた場合や、具体的な債務の内容や規模が明らかでない状況では、限定承認という選択は非常に価値が高いものといえるでしょう。
不動産を手元に残せる
限定承認によって不動産を相続した場合、不動産に相当する額の債務を弁済すれば、不動産を手元に残すことが可能です。
被相続人の残した債務が大きい場合には相続放棄という選択肢もあります。相続放棄を選んだ場合は、すべての相続財産を手放す必要があります。つまり不動産も失ってしまうということです。
しかし限定承認なら、不動産相当額の債務を別の相続財産でない財産で弁済できれば、相続財産である不動産を残すことが可能です。
ただし不動産相当額の債務を弁済できない場合には、やはり不動産を売却しなければなりません。
先買権を行使できる
先買権とは、ある資産が外部の第三者に売却される際、相続人や特定の関係者が優先的に購入する権利を持つことを指します。
相続放棄をした場合にはこの権利は発生しませんが、限定承認であれば行使できます。相続した不動産が競売にかけられた場合などに、優先的に購入することが可能です。
あとになって発見された財産も相続できる
限定承認を選択した場合、あとになって発見された財産についても、相続の対象として考慮されます。
相続の過程は非常に複雑であり、亡くなった人の資産や債務を完全に把握するのは容易ではありません。ときには遺された文書や証拠をもとに調査を進めても、すべての財産や債務をすぐには特定できないケースも考えられます。
後日になって突如として新たな財産や資産が発見されることも珍しくありません。
限定承認を選択することで、あとから発見された財産・資産を相続の対象とすることができます。
少人数で相続の手続きを済ませられる
限定承認は相続放棄と比べると、少人数で相続の手続きを済まされるメリットがあります。
たとえば故人が多額の債務を抱えていた場合を考えてみましょう。
ある相続人が相続放棄をすると、次の順位の人が新たな相続人になります。しかしそのままでは次の相続人が多額の債務を抱えることになるため、債務がある旨を連絡し、自分と同じように相続放棄することをすすめる必要があります。
相続人の全員が相続放棄を選ばない限り、親族の誰かが故人の残した債務を抱えなければなりません。
しかし限定承認であれば、次の順位の人が相続人になることはないため、自分の手番ですべてに決着をつけられます。そのため少人数で相続手続きを終わらせることが可能です。
限定承認の3つのデメリット
限定承認のデメリットとしては、主に以下の3つが挙げられます。
- 相続人全員で行う必要がある
- 譲渡所得税を支払う義務がある
- 裁判所の手続きが必要となる
どれも重要なポイントなので、以下の解説を読んでしっかり把握しておきましょう。
相続人全員で行う必要がある
限定承認の手続きの大きな特徴として、実行するためには相続人全員の協力が必要になる点が挙げられます。この点は他の手続きとは異なる部分であり、あらかじめきちんと理解する必要があるでしょう。
相続はしばしば、多くの関係者が関与する複雑なプロセスとなります。特に相続人が多数いる場合や、意見の対立が生じている場合、全員の合意を得ることは容易ではありません。
相続人全員の合意がない状況で、限定承認の手続きを進めようとすると、全員の承認や協力が求められるため、手続きが難航する恐れがあります。
譲渡所得税を支払う義務がある
譲渡所得税とは、ある財産を売却したときに得られた利益に対して課せられる税金です。限定承認のデメリットの一つとして、相続した財産についてこの譲渡所得税を支払わなければならないことが挙げられます。
限定承認をすると、税制上は被相続人から相続人へ財産を売却したとみなされます。また、時価で売却されるとみなされる点に注意が必要です。
例えば、被相続人が存命中に4500万円で取得した土地が、相続時には6000万円に値上がりしていたという場合、1500万円の含み益に対して譲渡所得税が課されることになります。
裁判所の手続きが必要となる
限定承認の特性上、裁判所を介しての債務清算手続きが求められることも多く、これもデメリットの一つとして挙げられるでしょう。
限定承認をする場合、相続が始まったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し出る必要があります(民法924条)。その後は裁判所の先導で債務の清算が行われていきます。自分たちで勝手に進めることはできません。
「相続人が限定承認したこと」「債権者などは一定の期間内に請求の申し出をしなければならないこと」の2つについて公告手続きを行い、相続財産をお金に変えて、相続債務の支払いに充当していきます。
これらは大きな手間のかかる作業であるため、デメリットといえるでしょう。
参考:民法924条
限定承認の手続きの流れ
限定承認の手続きのおおまかな流れは、以下の通りです。
- 家庭裁判所に対し申述する
- 限定承認受理通知書を受領する
- 申述人あるいは相続財産管理人が清算手続きを行う
- 官報で公告する
- 債権者に対し催告する
- 債権者に対し弁済する
ほかの相続方法と比べて非常に手間のかかるものとなっているので、以下の解説を読んでざっくりとでも理解しておきましょう。
家庭裁判所に対し申述する
限定承認の最初のステップは、家庭裁判所への申述です。これによって、限定承認の適用を正式に裁判所に求めることになります。なお、相続が発生してから3ヶ月以内に限定承認の申述を行わなければいけません。
申述の際には、相続の事実を明確にするための資料や、相続人の関係を示す書類、相続財産の概略に関する情報などを提供する必要があります。申述の段階でミスがあると後の手続きに影響する恐れが大きいため、慎重に進めることが不可欠です。
限定承認受理通知書を受領する
申述が正式に受理されたら、限定承認受理通知書が送られてきます。通知書は、裁判所が提出された書類を確認し、限定承認の申述が正当であると判断した結果として送付されるものです。
受理通知書は、手続きを進めるうえでの基盤となる重要な書類なので、紛失しないよう大切に保管しておきましょう。
申述人あるいは相続財産管理人が清算手続きを行う
限定承認の手続きを実際に進めるのは、限定承認を申述した人物あるいは相続財産管理人のどちらかです。相続人が1人だけの場合、精算手続きは相続人本人すなわち限定承認申述人が行います。一方で相続人が複数いる場合には、家庭裁判所が選任した相続財産管理人が手続きを進めていきます。
手続きの具体的な内容は、相続財産の詳細なリストアップ・必要に応じた財産の売却など多岐に渡ります。手続きは複雑で時間がかかることも多く、遺産の内容や債権者の数によっては数ヶ月から数年に及ぶことも珍しくありません。
そのため、手続きを適切に進めるためには、相続財産の内容や債務の状況を詳細に把握しているだけでなく、法律に関する知識もある程度必要になります。専門家との連携を密に取ることをおすすめします。
官報で公告する
官報への公告は、相続財産の債権者に対して以下の2つを通知する目的で行われるものです。
- 限定承認の手段を選んだこと
- 債権者は一定の期間内に弁済の請求をする必要があること
具体的には、債権者が権利を行使するための期限や方法、連絡先などの詳細を明記し、官報に掲載することで公知の事実とします。官報への公告を通じて、債権者は自身の債権を確認し、適切な手続きを進めることとなります。
相続人が1人の場合は5日以内に、複数の場合は相続財産管理人が選ばれてから10日以内に、公告の手続きをしなければいけません(民法927条、936条3項)。
債権者に対し催告する
官報に公告を掲載したからといって、すべての債権者がそれを目にするわけではありません。そのため相続人が認知している債権者たちに対しては、個別に告知する必要があります。
弁済請求の期限は2ヶ月間です(民法927条)。
この手続きを通して、債権者のリストアップや債権の額の確定が行われ、一連の手続きが円滑に進行することになります。
債権者への催告は通常、書面で行われ、債権の内容や期限、清算の手続きに関する詳細などが記載されます。催告を受けた債権者は、一定の期間内に債権の存在や内容を回答しなければいけません。
参考:民法927条
債権者に対し弁済する
債権者への催告が完了し、債権の存在とその内容が確定したら、債権者に対する弁済が行われます。これは相続財産から債権者の債権に対応する金額を支払い、債権(相続人から見れば債務)を消滅させる行為です。
弁済の手続きは、相続人や相続財産管理人が中心となって行われます。
弁済が完了することで、相続人は債権者からの追加的な請求を避けることができ、相続財産の清算を穏便に済ませることが可能となります。
限定承認に必要な書類
限定承認を申し立てる際には、適切な書類が必要となります。具体的には、以下のようなものをそろえなければいけません。
- 限定承認の申述書
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 法定相続人全員の戸籍謄本
- 財産目録
- 財産目録に関する証拠書類
- その他、家庭裁判所から提出を求められた書類
提出する先は、被相続人の最後の住居地を管轄する家庭裁判所であることに注意してください。相続人の住居地を管轄する家庭裁判所ではありません。
限定承認に必要な費用
限定承認にどれくらいの費用がかかるかは、自分だけで行うか、弁護士などに依頼するかによって大きく異なります。
自分だけで行う場合には、以下のような費用が発生します。
- 戸籍謄本などの収集費用:1通450~750円
- 印紙代や郵便切手代:1件につき800円
- 官報公告費用:1行単位で料金が定められており、この場合は4万円程度
弁護士などに依頼する場合には、その報酬も費用として加わります。費用のシステムとしては「着手金・成功報酬金方式」と「定額型」の2つが考えられます。
着手金とは、弁護士の業務の結果にかかわらず最初に支払う費用のことです。成功報酬金とは、弁護士の業務が成功したことに対して支払われる費用のことです。
定額型の場合は、業務の成功失敗にかかわらず、事前に一定の金額を払うことになります。
いずれにせよ弁護士に対して支払う報酬は事務所によってまちまちであることに注意が必要です。
参考:官報公告掲載料金 | 官報公告 | 全国官報販売協同組合
限定承認をする際の2つの注意点
限定承認をする際の注意点としては、主に以下の2つが挙げられます。
- 手続きは3ヶ月以内に行う
- 手続きの完了前に相続財産を処分しない
どちらも重要な内容なので、きちんと頭に入れておきましょう。
手続きは3ヶ月以内に行う
限定承認は、故人の死亡後、自分が相続人になったことを知った日から3ヶ月以内に行わなければいけません(民法927条)。3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てをしなかった場合には、自動的に単純承認をしたものとみなされてしまうため注意が必要です。
そのため相続の事実を知ったときには、できるだけ早く情報を収集し、限定承認するべきケースか否かを判断することが重要となります。自分だけで考えると間違った判断をしてしまう可能性もあるため、相続を知った時点で弁護士などの専門家に協力をお願いするのもよい選択といえるでしょう。
参考;民法927条
手続きの完了前に相続財産を処分しない
限定承認の手続きが完了する前に相続財産を処分してしまうと、自動的に単純承認をしたものとみなされてしまうため、注意が必要です。
いったん単純承認とみなされてしまうと、それ以降は限定承認の手続きが一切できなくなるので、慎重に行動しましょう。
とはいえ被相続人が死亡した直後には、これから限定承認が必要になるかどうか、わからないのが通常です。したがって推奨される動きとしては、被相続人の死亡直後には財産に一切手をつけず、専門家の判断を仰ぐことなどが挙げられます。
限定承認についてお悩みの方はサン共同相続相談センターへ
相続に関する手続きや複雑さは、多くの人々にとって頭を悩ませるものです。特に限定承認という手続きは、メリットやデメリットを正確に理解し、適切に行動することが求められます。
しかし専門的な知識や経験を持たない一般の相続人にとって、限定承認などの手続きを単独で進めるのは困難であると感じることも少なくありません。
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限定承認に関するよくある質問
限定承認とはどのような相続方法ですか?
限定承認とは、相続財産が相続人の個人財産を超えている場合や、相続負債が存在する場合に選択できる相続手続きの方法です。
限定承認を選ぶことで、相続人は相続財産のなかでのみ債務の支払いを行えばそれでよいことになり、相続人の財産を使って負債を支払うリスクを回避できます。
限定承認のメリットは何ですか?
限定承認のメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 借金を自分で弁済する必要がない
- 不動産を手元に残せる
- 先買権を行使できる
- あとになって発見された財産も相続できる
- 少人数で相続の手続きを済ませられる
まとめ
限定承認は相続手続きのなかでも、特殊な事情に配慮したものとなっています。相続人が自身の財産を相続負債のリスクから守れるようにすることが、この制度の第一の目的です。
特に、財産の詳細が不明瞭な場合には、限定承認の選択が有効となります。
一方で限定承認にはデメリットや注意点も存在します。すべての相続人が合意しなければならない点や、譲渡所得税の支払いが生じる点、特定の裁判所手続きが必要となる点などです。
したがって限定承認を選ぶ際には、手続きの流れや必要書類、かかる費用などについて十分に理解しておくことが必要となります。特に手続きの期限や相続財産の処分に関する注意点は、適切に対応しなければならない重要なポイントといえるでしょう。
本記事を参考にして、限定承認の制度を有効活用できるようになっておきましょう。