日本人が収めなければならない税金の代表例として、所得税が挙げられます。
さまざまな手段で得た収入のうち、一定の割合を国に納めなければならない所得税は、多くの国民に関わるものです。
しかし、実際に自分で所得税の納付手続きを行ったことがある人はそれほど多くないのではないでしょうか。
日本では会社に勤めて働く場合が多いですが、このケースで自分で所得税を納めている人は少ないでしょう。
会社勤めをしている人は、源泉所得税と呼ばれる所得税を納めていますが、会社勤めをしていると、自分で所得税を納める必要がありません。
この記事では、源泉所得税とは何かという基本的な説明から始まり、具体的な計算方法や納付方法などについて解説します。
※この記事は、弊社のコンテンツガイドラインに基づき作成されています。
目次
源泉所得税とは?
源泉所得税とは、従業員が受け取る給与や報酬などから、その支払いの際に予め差し引かれる所得税のことです。
この場合、従業員は自身の所得税について税務署に申告する必要がありません。給与を受け取る前に、予め雇い主が源泉徴収の形で所得税を差し引いているからです。
そのため、給与明細を見るなどの方法でしか自分が所得税を納めていることを実感できないことも多いでしょう。
所得税と源泉所得税の違い
源泉所得税は、所得税の一種です。
したがって所得税と源泉所得税の2つを並べたとき、両者の間には本質的な違いはありません。
ただし、「申告所得税」の意味で所得税という言葉が使われる場合もあります。申告所得税とは、個人事業主などが確定申告によって自ら所得を申告し収める所得税のことです。
この場合「所得税と源泉所得税の違いは納税方法である」ということができます。
ただし、どのような納税方法を取ったとしても、それによって得をしたり損をしたりといったことはありません。
源泉所得税だから納める金額が低い(または高い)といったことはない点を覚えておきましょう。
所得税と源泉所得税の違いについては、下記の記事でより詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
源泉所得税の計算方法
源泉所得税の計算方法は、収入の形態によって異なります。
代表的なものとしては、以下のような支払いが挙げられます。
- 給与の支払い
- 賞与の支払い
- 退職金の支払い
- 一定の報酬の支払い
それぞれ異なる方法で計算する必要があるので、ご自身の収入のタイプがどこに該当するかを考えながら、以下の解説をお読みください。
給与の源泉所得税の計算方法
給与の源泉所得税を計算する場合、以下の順序で行います。
- 給与の全額から社会保険料などを控除した額を求める
- 扶養控除等申告書を確認し、従業員に扶養控除を適用するか否かを確認する
- 国税庁が毎年公表する「給与所得の源泉徴収税額表」をもとに、源泉徴収する金額を求める
国税庁が発表する源泉徴収税額表は、月給制の場合と日給制・週給制の場合とで異なります。以下でそれぞれの計算方法を見ていきます。
月給制の場合
月給制の場合、源泉徴収税額表の月額表を参考にします。
「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出した従業員には「甲欄」が適用され、そうでない従業員には「乙欄」が適用されます。また日雇いなどの従業員に適用される「丙欄」と呼ばれるものもありますが、一般的な雇用形態においては使用されません。
日給制・週給制の場合
日給制あるいは週給制の場合には、源泉徴収税額表の「日額表」を適用します。
月額表と日額表では数字の設定が異なっているため、源泉徴収を行う者は両者を混同しないよう注意する必要があります。
賞与の源泉所得税の計算方法
賞与の源泉所得税は以下の順序で計算します。
- 賞与の額を確認する
- 「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出有無を確認する
- 源泉徴収税額の算出率の表を参照する
- 源泉徴収額を計算する
基本的な部分は給料の源泉所得税の計算方法と同じですが、参考にする表が異なることには注意が必要です。
扶養控除が適用されるか否かで計算結果が変わる点も、給与の場合と変わりません。
具体的に扶養家族が何人いるかだけでなく、前月の社会保険料等控除後の給与額の金額も関わってくるため、もれなく計算する必要があります。
退職金の源泉所得税の計算方法
退職金に対しても源泉所得税は課せられますが、退職金は長年にわたって勤務してきた業績に対して支払われるものです。退職後の生活を保証するものでもあるため、所得税についても一定の優遇が認められています。
退職金に課せられる源泉所得税は、以下の計算によって求められます。
まず課税される退職所得額を以下の計算式で求めます。
退職所得額=(収入金額(源泉徴収される前の金額)-退職所得控除額)÷2
上記の計算に使われている「退職所得控除額」は、勤続年数で変化します。勤続年数20年以下の場合は「40万円×勤続年数」となり、20年超の場合は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」となります。退職所得控除額が退職金額を上回る場合は所得税はかかりません。
退職所得額を計算したら、国税庁が公表している「退職所得の源泉徴収税額の速算表」に当てはめて、税額を計算します。
なお、「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合、退職金の額に対して一律20.42%の源泉所得税が課されることとなり、その場合は後で確定申告によって精算する必要があるため留意が必要です。
報酬の源泉所得税の計算方法
従業員ではない個人に対して支払った報酬にも、源泉所得税が課される場合があります。
ここでは一例として、個人の税理士や弁護士に支払う報酬の源泉所得税の計算方法を解説します。
個人の税理士や弁護士に支払う報酬の源泉所得税は、その支払額が100万円以下の場合と100万円超の場合とに分けて、以下の計算で求めます。
- 100万円以下の場合:支払い金額×10.21%
- 100万円超の場合:10万2,100円+(支払い金額-100万円)×20.42%
参考:No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金|国税庁
源泉所得税の納付方法
源泉所得税は原則として源泉徴収の対象となる給与などの支払があった月の翌月10日までに納付しなければいけません。
給与の支払日が月初であるか月末であるかにかかわらず、納付期限は原則「翌月の10日」となることに注意が必要です。
源泉所得税を納付する先は、源泉徴収を行う者の所轄税務署です。
具体的な納付方法には、以下のようなものがあります。
- 窓口納付
- コンビニ納付
- キャッシュレス納付
以下でそれぞれについて具体的に解説します。
窓口納付
源泉所得税は窓口納付が可能です。
納付先が税務署なので、当然税務署が代表的な窓口となりますが、他にも選択肢はあります。記入した納付書を持参すれば、郵便局(ゆうちょ銀行)や銀行・信用金庫などにおいても、源泉所得税を納付することができます。
このように、国の事務を代行する民間金融機関のことを「日本銀行歳入代理店」と呼びます。
コンビニ納付
日本のあちこちにあるコンビニにおいても、源泉所得税を納付することができます。
具体的には、ローソン、ナチュラルローソン、ミニストップ、ファミリーマートにおいて納付が可能です。いずれの場合も「Loppi」もしくは「Famiポート」の端末が設置されていることが条件となります。
コンビニ納付を行う場合、国税庁のホームページからQRコードを作成し、それを用いてコンビニのレジで支払いをします。
ただし、利用可能額は30万円以下となっていることに注意が必要です。
参考:【確定申告書等作成コーナー】-作成コーナートップ|国税庁
キャッシュレス納付
キャッシュレス納付とは、非対面で源泉所得税を納付できる方法です。
具体的には以下の4つの方法があります。
- ダイレクト納付
- 振替納税
- インターネットバンキング
- クレジットカード納付
ダイレクト納付は、e-Taxのシステムを使って直接税務署に納税する仕組みです。もっとも便利な方法ですが、専用のICカードリーダーなどを用意する必要があります。
振替納税は、あらかじめ申し込みをしておくことで、特定の銀行口座から自動的に引き落とされるようにする方法です。初回のみ振替依頼書の提出が必要となります。
インターネットバンキングなどによる納付も可能です。最近ではインターネットバンキングが増えてきているので、ネット経由で納付することができます。
クレジットカード納付は、クレジットカードを利用して納付する方法です。「国税クレジットお支払いサイト」から納付手続きを行います。ただし、納付税額に応じて決済手数料がかかることに注意が必要です。
源泉所得税に関する3つの注意点
源泉所得税に関して注意すべき点として、以下の3つが挙げられます。
- 納付期限を守る
- 納付漏れがないか確認する
- 復興特別所得税も忘れずに源泉徴収し、納付する
これらをしっかり守っておかないと、ペナルティが課せられる恐れがあります。無駄な出費をすることなく正しく納税を済ませるために、以下の解説をしっかり把握しておいてください。
納付期限を守る
源泉所得税を納める義務を持つ者は、原則として源泉徴収の対象となる給与などの支払があった月の翌月10日までに源泉所得税を納付しなければいけません。
そのため給与の支払いが月初であれ月末であれ、その翌月の10日までと定められています。
期限以内に支払いがなかった場合には、督促状が送付されてきたり、不納付加算税・延滞税などの追徴課税がなされたりします。期限は絶対に守るようにしましょう。
納付漏れがないか確認する
納付漏れがないか確認することも重要です。
従業員が多くなってくると、それだけ処理しなければならない源泉所得税の数も増えていきます。従業員一人一人、扶養控除があるか否かといった違いなどもあるため、きちんと分けて速やかに処理しなければいけません。
納付漏れがあった場合、それがいかなる理由であろうと「期限までに税金を納めなかった」ものとされます。従業員が多く作業が煩雑だったため意図的にではなく納付漏れが起きてしまった、といくら釈明しても、それでペナルティが免除されることはありません。
会社としての給与処理などが複雑になってきた場合、納付漏れが決して起きないよう、仕組みを整えておくことが大切となります。
復興特別所得税も忘れずに納付する
第179回臨時国会において、「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」が成立しました。それと同時に創設されたのが「復興特別所得税」です。
復興特別所得税は、2013年1月1日から2037年12月31日までの間に生じる所得に対して課されます。
源泉徴収される復興特別所得税の額は、源泉徴収される所得税の2.1%相当額とされています。
源泉所得税を納める際には、復興特別所得税を加えることを忘れないようにしましょう。
源泉所得税に関する不安や悩みは税理士へ相談しよう
源泉所得税は、給与をもらう従業員の側からすれば楽なシステムです。自分で所得税の計算をする必要も、申告する必要もないからです。
しかしそれと引き換えに、従業員に給与や賞与を支払う側は、煩雑な処理を求められることになります。従業員が増えれば増えるほど作業は複雑なものとなり、本来の業務に費やしたいリソースの多くを、源泉徴収の処理に回さなければならないこともあるかもしれません。
源泉所得税の実務に不安がある方は、サン共同税理士法人までお気軽にお問い合わせください。
サン共同税理士法人では初回相談が無料となっています。源泉所得税のみならず、税金に関するあらゆるご相談を承っていますので、ぜひお気軽にお問合せください。
源泉所得税に関するよくある質問
源泉所得税に関する、よくある質問に回答します。
- 源泉所得税額表とは何ですか?
- 源泉所得税額表とは、給与や賞与など収入の種類に応じて異なる源泉所得税額をまとめた表のことです。国税庁が毎年発表しており、源泉所得税を納める者は、表に記載された内容に従って源泉所得税の計算をしなければいけません。
- 個人事業主に源泉所得税は関係ありますか?
- 個人事業主でも、源泉所得税を徴収する立場や、される立場になる場合があります。
たとえば飲食店を経営している個人事業主がアルバイトを雇った場合は源泉徴収義務者となり、アルバイトに対して支払う給与から源泉所得税を徴収しなければいけません。
一方、個人事業主が仕事を受けた場合、取引先から受け取る一定の報酬については源泉所得税の対象となり、支払われる報酬から差し引かれることとなります。この場合は源泉所得税を徴収される立場ということになります。
2010年より約10年間、デロイト トーマツ税理士法人のビジネスタックスサービス部門において、シニアマネジャーとしてコンテンツ・国際運輸業を中心とした国内大手上場企業に対する税務アドバイザー主任を担当。
2020年12月にサン共同税理士法人に参画し、2021年2月に五反田オフィス所長に就任。