財務省は5 月9日、商工組合中央金庫(以下、商工中金)の政府保有株式に関する3回目の一般入札結果を発表しました。全3回にわたる一般入札には全国の中小企業や中小企業組合のほか、2回目の入札からは商工中金も参加しました。これにより、政府保有株式はすべて売却され、民間株主のみがオーナーの金融機関となりました。
商工中金とは?
商工中金は、中小企業や協同組合に対する金融支援を目的に、政府と中小企業組合の共同出資によって1936年に設立された金融機関です。設立以来80年以上にわたって『中小企業による中小企業のための金融機関』という姿勢を貫き、日本における企業数の99% 以上を占めている中小企業に対して、資金面を中心とした安定的な支援を行っています。
民営化までの流れ
商工中金は、小泉純一郎政権下の2006年に完全民営化の方針が決定しました。しかし以降は、リーマンショックや東日本大震災等の影響により、完全民営化の延期が繰り返されてきました。また、2016年に発覚した危機対応業務に係る不正事案を機に経営改革プログラムを実行し、「新たなビジネスモデルを踏まえた商工中金の在り方検討会」を経て、2023年6月に株式会社商工組合中央金庫法(以下、商工中金法)の改正法案が成立しました。
今回の政府保有株式の売却は、この改正商工中金法に盛り込まれた内容の一つになります。今回の入札において、商工中金が政府保有株式の大半を落札したと見られており、今後は自社株式を中小企業組合やその構成員へ売却していくことが検討されています。
民営化による影響
民営化後も、中小企業組合及びその構成員を株主とする体制は変わらず、商工中金の取引先である中小企業の意向が商工中金の運営に反映される仕組みが維持されます。加えて、これまで実施してきた危機対応業務についても引き続き実施される見込みです。
他の民間金融機関からは、過去の商工中金による民業圧迫事例を踏まえた懸念もあり、民間金融機関との協調体制が今後の課題となります。
一方、民営化に伴い、これまでの業務範囲の制限が緩和されるため、IT システムの販売や人財サービスの提供など、新たな活動領域に進出することが可能となります。他にも、企業のGX・DX、スタートアップ支援、再生支援、事業承継・MA 等の様々な分野において、全国ネットワークを通じて、これまでに蓄積されたノウハウや知見を更に活用していくと見られます。