会社員として日々過ごしていると、税金を自分自身で納める機会がほとんどありません。
収めるべき税金の代表的なものとして所得税が挙げられますが、ほとんどの場合会社員の支払う所得税は「源泉徴収」という形であらかじめ給与から差し引かれています。
源泉徴収という形で引かれた所得税は、場合によって「取られすぎている」ことがあります。その場合は確定申告をすることによって、払いすぎた源泉所得税の還付を受けられます。
しかし、確定申告をしたことのない会社勤めの人にとって確定申告は具体的にどうすればよいか分からないのではないでしょうか。
そこでこの記事では、確定申告によって源泉所得税の還付が受けられるケースと、その具体的な方法について解説します。
※この記事は、弊社のコンテンツガイドラインに基づき作成されています。
目次
源泉所得税の基礎知識
会社勤めをしている人の場合、会社が源泉徴収をしてくれます。源泉徴収とは、会社勤めをしている人の給与にかかる所得税を、簡易的な方法で支払う手続きのことです。
この仕組みがあるため、会社勤めをしている人は自身の所得税を納めるために確定申告をする必要がありません。このようにして差し引かれる所得税を、源泉所得税と呼びます。
しかし源泉所得税は、場合によって払いすぎになっていることもあります。払いすぎた分については、当然ながら還付を受ける権利があります。そのために必要な手続きが、確定申告です。
会社員が確定申告で源泉所得税の還付を受けられるケース
会社員が確定申告によって源泉所得税の還付を受けられるケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 医療費控除を利用する場合
- セルフメディケーション税制を利用する場合
- 住宅ローン控除を利用する場合
- 寄附金控除(ふるさと納税)を利用する場合
順番に見ていきましょう。
医療費控除を利用する場合
ある年の1月1日から12月31日までの間に、自分自身や配偶者などの家族のために医療費を支払った場合、一定額を超える医療費については所得控除を受けられます。この仕組みを医療費控除といいます。
日本においては、どれだけ医療費がかかったとしても、定められた一定以上の金額を支払う必要はありません。いったん支払ったそれらの金額は、確定申告によって還付されます。
医療費控除の金額は、次の式によって計算します。
(実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補填される金額)-(10万円または所得金額が200万円未満の場合は総所得金額の5%)
この計算式にもとづいて算出された金額を確定申告において所得からマイナスし、払い過ぎた税額を取り戻すことができます。
参考:No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)|国税庁
セルフメディケーション税制を利用する場合
セルフメディケーション税制は、別名「特定一般用医薬品等購入費を支払った場合の医療費控除の特例」といいます。わかりやすくいうと、ある年に健康促進や病気予防のための取り組みとして、一定の健康診断や予防接種を行った場合に、合計額のうち12,000円を超える部分の金額を控除できる制度です。
一定の健康診断や予防接種の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 健康保険組合などが実施する健康診査
- 市区町村が健康増進事業として行う健康診査
- インフルエンザなどの予防接種
- 勤務先で実施する定期健康診断
- 特定健康診査や特定保健指導
- 市区町村が健康増進事業として実施するがん検診
セルフメディケーション税制は、通常の医療費控除と同時には適用できません。どちらの精度を適用したほうがより多くの還付を受けられるか計算し、お得な方を選ぶことをおすすめします。
住宅ローン控除を利用する場合
住宅ローン控除とは、個人が住宅ローンを利用してマイホームの新築・取得または増改築などを行ったとき、一定の要件を満たせば一定の金額を各年の所得税の金額から控除することができる制度のことです。
正式名称は「住宅借入金等特別控除」といいます。
住宅ローン控除の適用要件としては、以下のようなものが挙げられます。
- 住宅を新築、または新築住宅を取得した場合
- 買取再販住宅を取得した場合
- 中古住宅を取得した場合
- 増改築などをした場合
- 要耐震改修住宅を取得し、耐震改修をした場合
- バリアフリー改修工事をした場合
住宅ローン控除を利用する場合は、1年目のみ確定申告を行う必要があり、2年目以降は年末調整で控除を受けることができます。
寄附金控除(ふるさと納税)を利用する場合
ふるさと納税とは、自分が住んでいる場所とは異なる好きな自治体に対して寄付を行い、寄附金額のうち2,000円を超える部分について、所得税及び個人住民税からそれぞれ控除が受けられる制度です。
ふるさと納税をすると、納税先の自治体から返礼品が送られるのが一般的で、この返礼品を通常の形で買った場合の価格が、しばしば納税額よりも高いことから、節税のための有効な方法として広く活用されています。
ふるさと納税にはワンストップ特例制度があり、この制度を利用すれば確定申告をしなくても寄附金控除が受けられます。
利用しない場合には、自ら確定申告をすることでしか還付を受けられないので注意が必要です。
確定申告をする方法
給与所得者が確定申告をする場合の具体的な手順は、以下の通りです。
- 会社から源泉徴収票を入手する
- 確定申告書類を作成する
- 確定申告書類を提出する
- 還付税額の入金を確認する
各々の置かれた状況によってやり方が異なる場合がありますが、おおむね以上の流れで還付を受けられます。順番に見ていきましょう。
会社から源泉徴収票を入手する
まずは会社から源泉徴収票を取り付ける必要があります。
源泉徴収票とは、1年間の収入と源泉徴収税額が記載された書類のことです。会社は従業員に対して給与を支払う際、源泉所得税を計算して差し引き、国に納税しています。源泉徴収票は、この一連の流れにおける具体的な金額などを証明する書面です。
源泉徴収票は、12月に行われる年末調整のあとに発行されます。そのため12月分の給与明細と一緒に受け取るのが一般的です。
しかし会社によっては、自動的に源泉徴収票を受け取れるようにはなっていないかもしれません。
その場合には人事部などに問い合わせ、源泉徴収票の発行を求めましょう。従業員にはそれを要求する権利があります。
確定申告書類を作成する
源泉徴収票を入手したら、次に確定申告書類を作成します。個人事業主などにとっては確定申告書は見慣れた存在ですが、会社勤めをしている人の場合はなじみが薄いかもしれません。しかし確定申告書類はフォーマットが決まっているので、一度分かってしまえば次からは問題なく扱えるようになるでしょう。
確定申告書類は、紙で作成する場合とWebで作成する場合があります。それぞれについて見ていきます。
紙で作成する場合
確定申告書類を紙で作成する場合には、まず国税庁の公式サイトからPDF形式の書類をダウンロードしましょう。
この確定申告書の必要箇所を、源泉徴収票を見ながら埋めていきます。
確定申告書は第一表と第二表があり、セットで作成しなければいけません。以下でその手順について解説します。
まず確定申告書の第二表から記載を始めます。「所得の内訳」に、源泉徴収票の「支払い金額」「源泉徴収金額」を記入しましょう。
次に確定申告書の「社会保険料等の金額」に必要な事項を記入していきます。「保険料等の種類」の欄には「源泉徴収票の通り」と記入し、合計額をそのまま転記すれば大丈夫です。それから「生命保険料の支払い金額」「地震保険料の支払い金額」について源泉徴収票または基礎資料から確定申告書に転記します。
「本人に関する事項」の欄も、源泉徴収票の内容をそのまま記入していきましょう。該当する項目がなければ空欄のままで問題ありません。
次に「配偶者や親族に関する事項」も源泉徴収票から確定申告書に転記します。
ここまで終わったら、第二表に記入した内容を、そのまま第一表に書き写します。それぞれ該当する箇所に、必要な内容を書き込んでいきましょう。
Webで作成する場合
Webで作成する場合には、国税庁が用意した「確定申告書等作成コーナー」を利用します。
ページの中央に「作成開始」と書かれたボタンがあるので、それをクリックすることで作成開始となります。あとはWeb上で確定申告書を作成することになりますが、その具体的な内容は前項で解説した紙の場合と変わりありません。
前項で解説したことを参考にして、順番に作成していきましょう。
確定申告書類を提出する
確定申告書類の作成が終わったら、税務署に提出します。
確定申告書類を提出する時期は、例外がない限り毎年2月16日から3月15日までと定められています。この期間内に忘れずに提出することを心がけましょう。
確定申告書類を提出する方法としては、以下の3つがあります。
- 直接税務署に行って提出する
- 確定申告書類を税務署に郵送する
- e-Taxにより送付する
還付税額の入金を確認する
税務署に確定申告書類を提出すると、一定の確認期間を経て指定した銀行口座に還付税額が振り込まれます。
この振込を確認できたら、手続き完了です。
具体的に振込までにどれくらいの期間がかかるのかは明示されていません。
例えば半年経っても税務署からの問い合わせや還付税額の振込がない場合には、税務署に問い合わせてみても良いでしょう。
確定申告の相談は税理士にしよう
特に給与所得のみの場合は記入する項目もそれほど多くはないので、一つ一つ進めていけば不慣れな人でもなんとか確定申告をすることができるでしょう。
しかし、確定申告自体は細かい作業の積み重ねのため、忙しい毎日を過ごされている方にとっては煩わしい作業に感じられるかもしれません。
また、いくらの還付が受けられるのかについて、一般の方には分かりづらい場合もあります。
税金に関する個別具体的な相談は、税理士法の規定により税理士しか対応することができません。確定申告で何か分からないことがあった場合、あるいは確定申告そのものが煩雑に感じられ、プロに任せたい場合には、税理士へ相談することをおすすめします。
源泉所得税の確定申告に関するよくある質問
源泉所得税の確定申告に関するよくある質問に回答します。
- 確定申告には源泉徴収票が必要ですか?
- 払いすぎた源泉所得税の還付を受ける場合には、源泉徴収票が必要です。会社から発行されるのが一般的なので、これをしっかり保管しておきましょう。
もし会社から源泉徴収票が発行されていないのであれば、人事部などに問い合わせをして発行してもらってください。
- e-Taxを利用して源泉所得税の還付を受ける方法は?
- e-Taxを利用して源泉所得税の還付を受けるには、e-Taxを利用する環境を整える必要があります。
e-Taxを利用できる環境を整えてしまえば、あとは毎年自宅から簡単に手続きを済ませられます。今後も毎年確定申告をする可能性がある場合には、e-Taxの利用環境を整えておくことをおすすめします。
まとめ
源泉所得税は払いすぎになるケースも多いため、この記事を参考にして確定申告書類の作成手順を覚えておきましょう。
ただし、日々の仕事が忙しく、なかなか確定申告まで手が回らないという方もいるはずです。その場合には、税理士に相談してみることをおすすめします。プロのノウハウを活用し、確実にあなたをサポートしてくれることでしょう。
2010年より約10年間、デロイト トーマツ税理士法人のビジネスタックスサービス部門において、シニアマネジャーとしてコンテンツ・国際運輸業を中心とした国内大手上場企業に対する税務アドバイザー主任を担当。
2020年12月にサン共同税理士法人に参画し、2021年2月に五反田オフィス所長に就任。