インボイス制度が導入されたら、請求書の取り扱いがどのように変わるのか知りたい人、また適格請求書発行事業者になるかどうかで迷っている人は多いのではないでしょうか。
軽減税率とは、納税者の負担軽減を目的とし、特定の商品に限って標準の税率より低く設定する制度です。インボイス制度下では、軽減税率の対象商品を明確にしたうえで、税率ごとに区分して表示するインボイスを保存しておかなければ、仕入税額控除の適用対象になりません。
インボイス制度下で軽減税率の取り扱いを間違えば、仕入税額控除が適用されず、消費税を多く納めなければならなくなるかもしれません。インボイス制度下における軽減税率の適用方法およびメリット・デメリットを解説します。
目次
軽減税率制度とは?
軽減税率制度とは、特定の商品に限り標準の税率より低く設定し、納税者の負担を軽減する制度です。2019年10月1日に消費税が10%へ引き上げられたことに伴い、導入されました。
軽減税率の商品を扱うときは、経理上はもちろん請求書上でも分けて処理しなくてはなりません。具体的には以下のように取り扱います。
- 税率ごとに区分した請求書(区分請求書)の作成
- 税率ごとの記帳(区分経理)
- 消費税の申告時に税率ごとの計算
消費税は、課税対象の売り上げを課税対象とする税金です。消費税額は、以下の式により求められます。
- 納税額=課税対象の売り上げにかかる消費税-課税対象の仕入れにかかる消費税
正確な消費税額を把握するためには、税率ごとの計算が必要です。
軽減税率の対象商品
軽減税率の対象商品は、大きく分けて2種類あります。
- 酒類・外食を除く飲食料品
- 定期購入契約をした週2回以上発行される新聞
具体的には、以下のように分類します。
標準課税:10% | 軽減税率:8% |
酒(飲料用・調理用ともに)
本みりん 医薬品 医薬部外品の栄養ドリンク 医薬部外品のゼリー飲料 飲食店での飲食 コンビニのイートイン 食事のケータリング コンビニ・駅の売店で新聞を購入 新聞の電子版 |
米、肉、野菜など一般食品
菓子 みりん風調味料 菓子としてのゼリー飲料 キッチンカーで売られるお弁当 食品のデリバリー 週2回以上の定期契約をした紙の新聞 |
また、以下の場合は、例外的に軽減税率の対象です。
- 有料老人ホーム等で行う飲食料品の提供にケータリングを利用する場合
- おもちゃ付きのお菓子など、食品と食品以外が一体となった商品で税抜き1万円以下かつ食品の価格を占める割合が2/3以上の場合
食品や新聞購読は、ケースにより税率が異なります。消費税額の計算をするときは、注意が必要です。
参考:消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)|国税庁軽減税率・インボイス制度対応室
経過措置により旧税率が適用される取引
本来、標準の税率が適用されるべき取引のなかでも、経過措置により旧税率(8%)が適用される取引があります。具体的には、以下のような取引です。
- 請負工事
- 資産の貸付
- 指定役務の提供
- 通信販売
- 有料老人ホーム
- 特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)に規定する再商品化等
ソフトウェア開発や老人ホームの入居などは、数年単位で契約します。2019年10月以前の契約が現在も有効なケースは少なくないでしょう。
たとえば、2019年10月より前に有料老人ホームの入居契約をしていたとします。その場合、適用される消費税は8%です。ひとつの契約が続いているとみなし、このような契約に対しては旧税率が適用されます。
適用の要件は、取引ごとに異なります。詳細は、国税庁が公表している情報を参照してください。
参考:平成31年(2019年)10月1日以後適用する消費税率等に関する経過措置|国税庁
インボイス制度とは?
インボイス制度とは、消費税の仕入税額控除を適用するための方式です。2023年10月に開始するインボイス制度では、適格請求書発行事業者が発行した請求書に対してのみ仕入税額控除が適用されます。
また、インボイス制度に対応した請求書は、発行者と受け取り者の双方が一定期間保存しておかなければなりません。
適格請求書発行事業者になるには、管轄の税務署に登録申請用紙を提出します。税務署の審査を経て適格請求書発行事業者として登録されます。
さらに、実際にインボイスを発行するために、以下の準備をしなければなりません。
- インボイスの保存場所
- インボイスに対応した請求書フォーマットの変更
- 会計システムの導入
インボイス制度は、免税業者・課税業者を問わず、すべての事業者に影響する可能性のある制度のため、早めの準備が必要です。
仕入税額控除とは?
仕入税額控除とは、消費税の納税額を計算する際の仕組みです。以下の計算式により消費税の納税額を算出します。
- 消費税額=課税売り上げに係る消費税額-課税仕入れ等に係る消費税額
課税仕入れ等に係る消費税額は、2種類の計算方法があります。
- 個別対応方式:課税仕入れに係る消費税を3区分し、それぞれの計算法で算出したものを合算する
- 一括比例配合方式:すべの課税仕入れに係る消費税に課税売り上げ割合を掛けて算出
個別対応方式は、課税仕入れに係る消費税を以下の3つに区別し、算出した額を合算した金額が仕入税額控除です。
課税仕入れに係る消費税 | 仕入税額控除 | 例 |
イ:課税売り上げに要する課税仕入れ等に係るもの | 全額控除 | 売り上げに直接対応する仕入れ |
ロ:非課税売り上げに要する課税仕入れ等に係るもの | 控除対象外 | 土地・有価証券の譲渡手数料
所有物件の清掃委託料 社宅賃貸仲介手数料 |
ハ:課税売り上げと非課税売り上げに共通して要する課税仕入れ等に係るもの | ハ×課税売り上げ割合 | 課税資産と非課税資産に共通する取得費用、水道光熱費 |
仕入税額控除と一括比例配合方式で使用する課税売り上げの割合は、以下の計算式で算出します。
- 課税売り上げ割合=課税売上高(税抜き)÷総売り上げ高(税抜き)
課税仕入れに係る消費税額の計算方法は、確定申告書に記載します。一括比例配合方式を選んだときは、最低2年間同じ方法で計算しなければなりません。
インボイス制度が導入される目的と背景
インボイス制度は、正しい消費税額と消費税率を把握するために実施します。
2019年10月に軽減税率が導入され、消費税の税率は2種類になりました。複数の税率が売り上げと仕入れにかかるため、事務処理は複雑です。消費税額の計算間違いや不正に利用されるなど、さまざまな問題が起きています。
インボイス制度はそういう問題を解決する制度です。消費税の税額と税率が明確になるため、計算間違いや不正防止の効果が期待できます。
また、国税庁は適格請求書発行事業者が増え、消費税を納税する事業者(課税事業者)が増えることも狙っています。適切に消費税を徴収するためにも、インボイス制度を導入するのです。
インボイス制度における軽減税率の取り扱い
これまで標準税率と軽減税率の併存が、納税額の計算間違いや不正の原因となっていました。しかし、インボイス制度が導入されれば、売り手は買い手に、税率ごとの正確な消費税額を通知することになります。それにより、間違いや不正は減ることでしょう。
ここでインボイスに記される情報を具体的に見ていきましょう。
適格請求書発行事業者は、取引相手の求めに応じて軽減税率の対象品目や消費税額を明記したインボイス(適格請求書)を発行する義務があります。インボイスに記載する項目は以下の通りです。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称、登録番号
- 取引日付
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとの合計金額(税抜きまたは税込み)および適用税率
- 税率ごとの消費税額
- 請求書を受け取る事業者の氏名または名称
税率ごとの消費税額を計算するときは、一請求書あたり税率ごとに1回ずつ端数処理をします。
なお、不特定多数が買い手となる小売業やタクシー業には、適格簡易請求書の発行が認められています。適格簡易請求書は、請求書を受け取る事業者の氏名または名称の記載が不要です。
インボイスで軽減税率を取り扱う3つのメリット
インボイスで軽減税率を取り扱うメリットは3つあります。
- 表記によって税率ごとの明細がわかる
- 税率ごとの区分管理がしやすい
- 税率区分ごとに金額が把握しやすい
それぞれ詳しく見ていきましょう。
表記によって税率ごとの明細がわかる
購入した商品のうち、どれが軽減税率の対象商品だったかは、請求書を見るだけでわかります。請求書には、軽減税率の対象であるか標準課税の対象であるか、一目で判断できるように記載されるからです。
今までの請求書は、適用した消費税の税率を個別に明示する必要がありませんでした。複数の税率で計算したものを合算していたため、以下のような問題が生じていました。
- 受け取ったあとの経理処理で、軽減税率の対象商品をピックアップしなければならない
- 売り手と買い手で対象商品に認識相違の恐れがある
- 対象商品が不明確なことを理由に不公平感が出る
軽減税率の対象商品が一目でわかれば、このような問題は解消するでしょう。
税率ごとの区分管理がしやすい
請求書を見れば、商品ごとの消費税率がわかります。対象商品ごとに税区分が記載された請求書は、経理上も税務上も管理がしやすいというメリットがあります。
経理処理や消費税の納税でミスが起こりにくくなり、以下の通り、事務負担を減らせるでしょう。
- 仕入れ業者から消費税額を不当に請求されることがなくなる
- 消費税額の計算が簡単になり、消費税の納めすぎを防げる
- 対象商品が不明確なことに起因する不正や計算ミスがなくなる
税率ごとに区分管理することで、計算ミスによる不当な請求や消費税の納めすぎを防げます。
税率区分ごとに金額が把握しやすい
インボイスには、税率区分ごとに合計金額と消費税額を記載しなければなりません。税率区分ごとに税率と合計金額が明記されているため、金額が把握しやすい点がメリットです。
税率区分ごとに金額を把握することで、以下のような事務処理が効率化できます。
- 請求書を経理処理するときは、転記するだけで仕訳におこせる
- 消費税の申告作業のときに、税率ごとに合計するだけで消費税額が計算できる
- 返品や値引きが発生したときに、対象商品の消費税額を算出しやすい
インボイスで軽減税率を取り扱うと、税率区分ごとに金額が把握できるため、事務処理が効率化できます。事務処理が効率化できる点は、大きなメリットと言えるでしょう。
インボイスで軽減税率を取り扱う3つのデメリット
請求書をインボイスにするのは負担を伴うことです。
- 会計システムの変更などにコストがかかる
- 税率ごとの区分管理に手間がかかる
- 免税事業者はインボイスを発行できない
本章では、上記3つのデメリットについて詳しく解説します。
会計システムの変更などにコストがかかる
インボイス制度に対応するためには、事前準備が必要です。具体的には、以下のような準備があります。
- 請求書のフォーマット変更
- 適格請求書など保存が必要な帳票の保存場所を確保
- 会計システムの変更
- 販売管理システムなど、連動するシステムの変更
- 仕入れ明細書や支払通知書など、請求書以外の書面のフォーマット変更
- 電子インボイスに対応する場合は、電子インボイスシステムの導入
課税事業者であれば、どの事業者も行わなければならないのが、請求書のフォーマット変更と適格請求書の保存場所確保です。会計システムを利用している場合は、会計システムの更新または変更をしなければなりません。
会計システムの変更には、費用と時間がかかります。事前準備に大きなコストが発生する点はデメリットです。
税率ごとの区分管理に手間がかかる
軽減税率の対象となる商品を販売するには、請求書に軽減税率の旨を明記する必要があります。請求書を作成する事業者から見た必要な作業は以下の通りです。
- 軽減税率の対象商品に印を付ける
- 税率ごとに合計金額を記載する
- 税率ごとに消費税額を記載する
以前は、税率が一種類だったため、販売する商品の合計に消費税率をかけていました。インボイス制度の開始以降に請求書を作成するときは、税率ごと商品代金の合計金額を算出し、消費税率をかけなければなりません。
今までの作業に比べて手間に感じる点はデメリットです。販売する商品の品目が増えるほど、税率ごとの区分管理に手間がかかり、ミスの原因となりえるでしょう。
免税事業者はインボイスを発行できない
インボイス制度は、商品・サービスの購入者から求められればインボイスを発行しなければならない制度です。しかしインボイスを発行できるのは、適格請求書発行事業者のみで、適格請求書発行事業者の登録ができるのは、課税事業者のみです。
つまり、免税事業者は、まず課税事業者になり、適格請求書発行事業者の登録をしなければ、インボイスが発行できません。
仮に課税事業者になると、売り上げ金額に関わらず、消費税の納税義務を負うことになります。売り上げ高が1,000万円以下の事業者は、免税事業者のままでいることもできます。適格請求書発行事業者になるメリット・デメリットを比較検討する必要があるでしょう。
インボイス制度下の軽減税率についてお悩みならサン共同税理士法人へ
インボイス制度下では、軽減税率を適用するために、複数の税率に対応するインボイスを発行する必要があります。ただし、インボイスは適格請求書発行事業者でなければ発行できません。また、適格請求書発行事業者になるには、課税事業者になる必要があります。
免税事業者の多くは、インボイス制度を機に課税事業者になることを選択肢の一つと考えていることでしょう。しかし、税負担が増える可能性があり、手間もかかるため、適格請求書発行事業者になるか迷ってしまうのではないでしょうか。
インボイス制度への対応でお悩みなら、税務のプロである税理士へ相談することをおすすめします。サン共同税理士法人では、初回無料相談を実施中です。ぜひお気軽にご相談ください。
インボイス制度と軽減税率に関するまとめ
2019年10月に導入された軽減税率制度は、特定の商品に限り標準の税率より低く設定し、納税者の負担を軽減する制度です。消費税率が2種類になったことで、計算ミスや作業の複雑化が課題となっていました。
このような問題も、2023年10月からのインボイス制度が解決します。消費税率と税額および対象商品が請求書に明記されることになるため、、経理や消費税額の計算は楽になるでしょう。
もっとも、事業者にとっては、インボイスを発行するときに商品を区分する手間が増えるといったデメリットもあります。また、免税事業者はそもそもインボイスを発行できません。課税事業者になるべきか迷う場合は、税務のプロである税理士に相談しましょう。
2008年5月よりデロイト トーマツ税理士法人GES部門に勤務し、海外拠点を多く持つ日本・海外企業に対する国際人事異動に関するアドバイザリー業務などに従事。
2011年11月、ビジネスタックスサービス部門に異動し、約9年間勤務。マネジャーとして国内上場企業や外資系企業の税務コンサルティング業務及び税務コンプライアンス業務、税務顧問及び業務効率化提案などを行ってきた。
2020年12月、約12年間マネジャーとして勤務したデロイト トーマツ税理士法人を退職。
2021年1月にサン共同税理士法人に参画し、同月、横浜オフィス所長に就任。