~企業経営におけるバランス感覚の重要性~
企業が資金調達や日常の資金管理を行う際、特定の金融機関に依存するか、複数の金融機関と取引するかは大きな経営判断の一つです。
特に中小企業にとっては、金融機関との関係性が資金繰りの安定性に直結するため、この選択は慎重さを要します。
ここでは複数金融機関との取引の主なメリット・デメリットを解説いたします。
メリット
(1)提案内容を比較検討できる
メインバンク以外とも取引を持つことで、融資条件やサービスを横並びで比較できます。
金利や返済期間だけでなく、補助金・助成金情報、業界特有の融資制度など、銀行ごとに強みが異なるため、選択肢が広がります。
(2)金利交渉力の向上
複数行の存在は、自然と競争環境を生みます。
「他行ではこの条件でした」と交渉材料にできるため、従来より低い金利や柔軟な条件で融資を受けられる可能性があります。
(3)資金調達リスクの分散
一行依存だと、その銀行の方針変更や担当者の異動によって融資姿勢が急変するリスクがあります。複数行と取引があれば、突然の貸し渋りや貸し止めに備えられる点も見逃せません。
デメリット
(1) 業績悪化時の対応リスク
業績が悪いときに、複数行と付き合っていることで「当行ではお力になれないので他行に相談しては」と距離を置かれるケースがあります。
結果的に、どの銀行からも決定打が得られず苦境に立たされるリスクもあります。
(2)事務フローの複雑化
口座管理や資金移動、借入返済スケジュールが銀行ごとに異なるため、経理や財務の事務負担が増えます。
小規模な企業ほど、この煩雑さが実務の負担として重くのしかかります。
(3)信頼関係の希薄化
メインバンクを一本化して深い関係を築くことで得られる「本気の支援」や「長期的視点での提案」が、複数行取引では弱まる可能性があります。
まとめ
複数行取引は「条件面の有利さ」と「リスク分散」をもたらす一方で、「関係性の希薄化」や「事務負担増」といった影の部分も抱えています。
結局は、自社の規模・成長ステージ・経営資源を踏まえ、どこまで分散させるか、どこで関係を深めるかというバランス感覚が重要です。
金融機関との関係は短期的なコスト比較だけでなく、長期的な信頼の積み重ねがものを言います。
複数行と付き合う際も、「広く浅く」ではなく「広く深く」を意識して関係構築を進めるのが望ましいでしょう。