これまで、企業が金融機関から融資を受ける場合、不動産担保や経営者保証等への依存度が高く、特にスタートアップ企業や小規模企業の資金調達の足枷となっていました。
このような課題の解決を目指して、2024 年6 月、「事業性融資の推進等に関する法律」が成立しました。こちらの法律は、事業者が、不動産担保や経営者保証等に依らず、事業実態や将来性に着目した融資(以下、「事業性融資」)を受けやすくなるように、基本理念・国の責務、企業価値担保権の創設等について定めたものになり、2026 年5月に施行予定となっています。
今回は、新しい担保制度となる『企業価値担保権』の概要を中心に、ご説明させていただきます。
企業価値担保権とは
企業価値担保権は、企業がもっている独自の技術やノウハウ、顧客基盤、取引データ等の無形資産を含む事業全体を、担保の対象としています。
まず、企業が信託会社と信託契約を締結し、事業全体を担保に設定します。そして、信託契約を基にして信託会社が指定した金融機関から企業に融資を行います。
担保権の対象となる財産担保目的財産
企業価値担保権の対象となる財産は、将来キャッシュフローを含む総財産となります。そのため、担保を設定する際には、事業一体を担保に含めることが可能です。
有形資産
土地、建物、設備、機械、車両運搬具 等
無形資産
会社の特許、ブランド、ノウハウ、顧客リスト、著作権、専門知識 等
企業価値担保権の活用例
スタートアップ企業
革新的なビジネスモデルの実現により、短期的な急成長を目指すスタートアップ企業は、先行投資として研究開発費、人件費、広告宣伝費等が必要となります。
事業を開始したばかりで、有形資産をあまり持っていないスタートアップ企業にとって、有形資産を担保とする融資は受けにくい側面があります。
企業価値担保権であれば、上記の無形資産も評価されるため、スタートアップ企業でも融資を受けやすくなる可能性があります。
事業承継
経営者保証に対して抵抗感のある事業者の場合、経営者保証が事業承継の妨げとなってしまうケースもあります。
企業価値担保権は、新たな経営体制や事業全体を含めて価値を評価されるため、担保価値があると判断された場合には、貸し手も経営者保証を求めることなく、融資を実行する可能性があります。
借り手から見た企業価値担保権のメリット& 留意点
企業価値担保権のメリットや留意点には、下記のような点が考えられます。
メリット
・事業性評価(過去の財務諸表のみならず、将来キャッシュフローを含む事業の将来性の評価)に基づいた資金
調達が可能であること
・事業計画の達成や経営改善に向けて、伴走支援が得られること 等
留意点
・信託スキームを用いるため、信託報酬等の費用が発生すること
・事業計画等、事業の将来に関する情報提供を必要とすること
・伴走支援のため、緊密なモニタリングの実施を必要とすること 等
まとめ
今回ご紹介した企業価値担保権は、貸し手に事業性融資に取り組む新たなインセンティブを提供するとともに、これまで事業性融資を受けることができなかった事業者への支援の可能性を広げる新たな担保制度として期待されています。
企業価値担保権を理解して活用することで、資金調達を行うことができる企業が今後増えてくると見られます。
ただし、安易な判断はせずに、当事者間で適切なコミュニケーションを図るとともに、留意点やリスクに見合ったメリットを享受することができるのか、企業自身で十分に検討することが必要と考えられます。