会社を立ち上げるというと株式会社をイメージする人が多いのではないでしょうか。しかし会社にはいくつか種類があり、株式会社以外にも選択肢はあります。そのうちの一つに合同会社があります。
会社の種類ごとに特徴があり、最適な選択肢は人それぞれです。どのような事業プランを持っているのか、方向性や規模感などによって判断することになります。
本記事では、合同会社を設立する具体的な方法を説明するとともに、手続きや資金調達法などについてもわかりやすく解説します。株式会社との違いを明らかにすることで、合同会社を立ち上げるべきケースとそうでないケースの判断がつくようにもしています。
最後まで読むことで、合同会社についての一通りの認識が深まるでしょう。
※この記事は、弊社のコンテンツガイドラインに基づき作成されています。
目次
合同会社とは?
合同会社とは、会社を立ち上げる人々が出資金額に応じて責任を負う特徴を持った会社形態の一つです。アメリカの「LLC=Limited Liability Company」をモデルとしており、2006年に施行された会社法の中で制定されました。
現在日本の会社のほとんどは株式会社ですが、合同会社はそれに次いで多く設立されています。有名なところでは、Amazonの日本法人であるアマゾンジャパン合同会社や、Googleの日本法人であるグーグル合同会社が挙げられます。
合同会社の最大の特徴は、出資した人々が出資金額に比例して経営に参加し、同時に損失もその比率にしたがって負担するところです。
結果として、出資者が直接経営に関与することとなり、個人事業主や小規模事業者が現在の事業形態を保ったまま法人化するのに向いています。
合同会社と株式会社の違い
日本の会社形態は、大きく分けると「株式会社」と「持分会社」の2種類あります。株式会社は文字通り、株式会社のことです。持分会社は「合名会社」「合資会社」「合同会社」の3つを総称した呼び方です。したがって合同会社は持分会社の1種であるといえます。
合同会社と株式会社の最大の違いは、会社の所有者と会社の経営者が分離しているかいないかです。
合同会社は出資者がそのまま経営者となり、会社の事業を運営していきます。お金を出した人が会社を経営する形となり、利益もリスクも出資者が背負うスタイルです。
それに対して株式会社は、所有と経営が分離されています。会社を所有しているのは株式を取得した株主たちであるのに対し、会社を経営するのは株主総会によって選ばれた取締役たちです。
このことから、合同会社は内輪で完結している小規模なビジネスに向いています。対して、株式会社は不特定多数から広く資金を募って会社としての希望を大きくしていく方向性に向いているといえるでしょう。
このほか、合同会社のほうが設立にかかる費用や手間が少なく済むことや、基本的に経営陣に任期がないことなども違いとして挙げられます。大企業であるAmazonやGoogleが日本法人を設立するにあたって合同会社を選んだのは、こういったことが理由であると考えられるでしょう。
合同会社と株式会社のどちらで会社設立すべき?
合同会社と株式会社のどちらで会社設立をするべきかは、ビジネスモデルや将来のビジョンによって異なります。
合同会社は出資者が直接経営に関与することから、小規模で完結している事業展開をしたり、出資者間の密接な連携に期待したビジネスを行ったりする場合に向いています。
一方で株式会社は、事業内容が大規模な資金調達を必要としたり株式を譲渡して事業拡大を目指したりする場合に適しています。
日本においては、一般的に、株式会社のほうが信用力が高いとされています。決して合同会社が株式会社より劣っているわけではありません。しかし株式会社のほうが知名度が高いことや、幅広く資金を募る形式であることなどが、信用力の違いにつながっていると考えられます。
合同会社の主な特徴
合同会社の主な特徴としては、以下の3つが挙げられます。
- 株式会社と同じく有限責任のみが生じる
- 出資額にかかわらず1人1票の議決権がある
- 役員の任期が定められていない
設立する会社として合同会社を選ぶにあたっては、特徴をしっかり把握しておくことが必要不可欠です。以下の解説を読んで、自身のビジネスプランにぴったり当てはまるものであるかを検討してください。
株式会社と同じく有限責任のみが生じる
合同会社の出資者は株式会社の出資者と同じく、自身が出資した金額に対してのみ責任を負います。このことを有限責任と呼びます。
たとえば合同会社を設立するにあたって、10人が100万円ずつ出資したとしましょう。そして結果として設立された合同会社が、残念ながら事業を成功させることができず、1億円の負債を抱えて倒産したとします。
このとき単純に負債を出資者の数で割ると、一人当たり1,000万円となります。しかし出資者が1,000万円の負債を抱えることはありません。出資した100万円分のみが負債となります。つまりこの場合においては、出資した100万円が戻ってこないことをもって、負債を支払ったことになるのです。
有限責任の反対の概念として、無限責任があります。これは合名会社の社員および合資会社の2種類の社員の一方に当てはまる責任の形です。無限責任を負った社員は、会社が多額の負債を抱えて倒産した場合、出資額にかかわらず負債を全て背負わなければいけません。
合同会社が持分会社のなかでも広く選ばれている理由の一つとして、有限責任の制度が挙げられます。
出資額にかかわらず1人1票の議決権がある
合同会社においては、出資額にかかわらず1人につき1票の議決権があります。
株式会社の場合、議決権は持っている株式の比率によって決まります。たとえばある会社の株式の10分の1を所有している株主は、株主総会において自分の意見を10%反映させることが可能です。
これをさらに押し進めて考えた場合、1つの会社の株式の過半数を取得すれば、その会社を実質的に自分の思い通りにできることになります。つまり株式会社は、多額の出資をすることで会社を「支配する」ことが可能な仕組みで動いています。
一方の合同会社は、出資額にかかわらず議決権は1人1票です。つまりシンプルな多数決ということになります。この仕組みにより合同会社は、少ない出資額でも出資者が経営の決定に影響を及ぼすことが可能となっています。
個人事業主や小規模事業者にとっては、これまでの自分のビジネススタイルをそのまま移し替えやすいという意味で、合同会社のほうが向いているといえるでしょう。
役員の任期が定められていない
合同会社の役員には、任期が定められていません。本人が役員であり続けることを望んでおり、周囲もそれに反対しないのであれば、10年でも20年でも問題なく役員を続けることが可能です。
任期が定められていないということは、定期的に役員の変更登記をする必要はないことを意味します。このことによってわずかながら経費が削減できるのもメリットの一つです。
任期が定められていないことによって、事業の長期的な視点からの運営が可能となります。経営者が頻繁に移り変わる状況では難しい意思決定も、合同会社であれば比較的やりやすくなります。
その一方で、経営陣の「長期政権」が成立しやすくなってしまうことにより、経営の透明性に欠けてしまったり、役員の交代が困難になったりといったデメリットが生まれ得ることは考慮する必要があるでしょう。
とはいえこの特性は、個人事業主や小規模事業者が経営方針をコンスタントに維持するのに有利に働きます。
合同会社を設立するメリット
合同会社を設立するメリットとしては、主に以下の5つが挙げられます。
- 設立費用・ランニングコストが低い
- 株式会社と同じく節税のメリットを受けられる
- 経営上の事務作業が簡単でコストも低い
- 経営の自由度が高い
- 利益の配分を自由に決められる
いずれも合同会社の特徴と深く結びついているもので、株式会社においては見られないものです。以下の解説を読んで、その特性をしっかり把握しておきましょう。
設立費用・ランニングコストが低い
合同会社は株式会社に比べて、設立費用が低いのが特徴です。
株式会社を設立する際には公証人に定款を認証してもらう必要があり、これには5万円の手数料がかかります。しかし合同会社は定款の認証を必要としないため、費用が発生しません。
参考:会社の定款手数料の改定
設立登記の際には、株式会社は登録免許税として「15万円または資本金の0.7%のうち高いほう」を納める必要がありますが、合同会社の登録免許税は「6万円または資本金の0.7%のうち高いほう」となっています。
参考:No.7191 登録免許税の税額表 会社の商業登記(主なもの)
ランニングコストに関しても、合同会社のほうが低いといえます。
株式会社の場合は、毎年の決算期ごとに数万円の官報掲載費がかかります。株式会社には決算を公告する義務があるからです。しかし合同会社にはこの義務がないので、費用が発生しません。
参考:官報公告掲載料金 | 官報公告 | 全国官報販売協同組合
株式会社では役員の任期が原則として2年と決まっているので、再任するにせよ新たに就任するにせよ登記する必要があり、登録免許税がかかります。一方の合同会社には役員に任期の概念がないため、定期的な登記変更の必要がなく、登録免許税もかかりません。
株式会社と同じく節税のメリットを受けられる
合同会社も株式会社と同じく、法人格を持っています。これにより、法人税の範囲内での経費の優遇や節税効果を受けることが可能です。これらは個人事業主よりも広く設定されています。
法人においては、個人事業主が計上できる各種の経費に加えて、給与や賞与といった費用も経費として計上することが可能です。
個人事業主の場合は生命保険料が所得控除として引かれることがありますが、これが経費として認められることはなく、12万円という上限も定められています。一方、法人が生命保険の契約者となった場合、契約内容や種類によっては全額を経費として計上できます。
さらに個人事業主の所得税は累進課税ですが、法人税は所得800万円以下なら15%、800万円超なら23.2%と一定税率です。このため大きな利益を上げれば上げるほど、法人を設立したほうが節税できるといえます。
経営上の事務作業が簡単でコストも低い
合同会社の魅力の一つとして、経営のシンプルさが挙げられます。
たとえば株式会社とは異なり株主総会の開催義務に該当するものがないため、経営に関する決定を素早く行うことが可能です。役員報酬の決定や社員の雇用などについても、株式会社と比べて規制が少なく、スピーディーに進められる利点があります。
シンプルである結果として事務作業が簡単となり、コストも低いというメリットが生まれます。コストダウンを図れるものの例としては、以下のようなものがあります。
- 役員の変更・留任時のコスト
- 決算広告のコスト
費用の点でも手間の点でも、合同会社は株式会社と比べて運営が容易であるといえます。
経営の自由度が高い
合同会社は株式会社と比べて、経営の自由度が高い点も特徴です。定款によって組織設計を自由に規定できるので、社員ごとの役割や利益の配分などといったことに関する取り決めを柔軟に実行できます。
株式会社の場合は、経営に関する重要な方針や物事を決定するためには、株主総会を開催し決議を得なければいけません。しかし合同会社は出資者が経営者であるため、株主総会に該当する意思決定の場を設ける必要がありません。経営者たちだけで迅速な意思決定が可能となっています。
出資者の意見が反映されやすいということは、会社を立ち上げた初期のメンバーが自分たちのビジョンを追求しやすいということです。自分たちの思い通りに経営することを第一に考えるのであれば、合同会社は魅力的な選択肢であると考えられます。
利益の配分を自由に決められる
合同会社においては、利益の配分を自由に決められます。
株式会社の場合、出資者に対して利益を配分するときには、必ず出資比率と割合と同じにする必要があります。10万株保有している株主は、1万株保有している株主の10倍の配当を得られる仕組みです。
合同会社も原則としては同じなのですが、定款で定めることによってその比率を自由に変更できる点が異なります。
たとえば出資とは別のところで会社に大きな貢献をした人物がいて、その人物により多くの利益配分をしたいと考えたとしましょう。合同会社であれば、定款に具体的な内容を記載することによって、その考えに応じたフレキシブルな利益配分を実現できます。
合同会社を設立するデメリット
合同会社を設立するデメリットとしては、主に以下の4つが挙げられます。
- 株式会社と比べて社会的信用度がやや低い
- 資金調達の方法が限られる
- 株式市場への上場ができない
- 出資者同士の意見が対立した場合の影響が大きい
メリットだけでなくデメリットもしっかり把握しておくことが大切です。以下の解説を読んで合同会社の負の部分についても理解し、それでもなお選ぶべきか検討してみましょう。
株式会社と比べて社会的信用度がやや低い
合同会社は株式会社と比べて、社会的信用度の点でやや劣るところがあります。理由として考えられるのは2つです。
まず、株式会社と比べてシンプルに知名度が低いのが理由としてあります。「株式会社を設立した」と伝えた場合に比べると、「合同会社を設立した」と伝えた場合は、先方にピンと来てもらえない可能性を否定できません。
株式会社と合同会社の違いを知っているいないにかかわらず、「なぜ定番の株式会社ではなく、あまり聞かない種類の会社を設立したのか」と訝(いぶかし)しがられてしまうことが実際にあります。
合同会社についての知識がある相手からは、決算広告の義務がなく、基本的に小規模で閉鎖的である点をもって、信頼性を疑われてしまう恐れがあります。
こういったことから、BtoBの取引では合同会社であることによって不利を受ける可能性があります。採用においても、良い人材を確保しづらいといった問題を考えなければいけないでしょう。
一方でBtoCの事業を行う場合には、顧客である消費者にとって会社形態の違いはほとんど問題になりません。そのため、合同会社を選ぶデメリットは少ないと考えられます。
資金調達の方法が限られる
合同会社の資金調達方法は限られており、資金調達の点で株式会社より難しいところがあります。これはデメリットの一つだといえるでしょう。
合同会社の資金調達の手段は基本的に、出資者からの出資です。それ以外には国や自治体から出る補助金や助成金、金融機関からの融資などが中心となります。社債を発行することも可能ですが、これは負債(借金)であるため、債権者に弁済する必要があります。したがって好きなときに好きなだけ実行できるものではありません。
株式会社の場合は、株式を発行することによって大量の資金を調達できます。しかも株式を発行することは借金ではないため、利子をつけて返さなければならない負債ではありません。この点は、株式会社のほうが優れているといわざるを得ないところです。
株式市場への上場ができない
株式会社は株式市場へ上場し、株式を発行することができます。一方で合同会社は、法律上の制約から株式市場への上場はできません。これは資金調達の観点から大きなデメリットであるといえます。
株式市場へ上場することのメリットは、大量の資本を調達できるだけではありません。上場することによって、会社の知名度が上がることもメリットに数えられます。合同会社はその機会がないため、大規模なビジネス展開や、大きな成長を遂げることが難しくなる恐れがあります。
出資者同士の意見が対立した場合の影響が大きい
合同会社の特性として、出資者同士の意見が対立した場合、その影響が大きくなることが挙げられます。出資者全員が経営に関与しており、1人1票の議決権を持って意思決定を行うからです。
代表社員の継承や事業継承、あるいは出資者の権利譲渡といったことを実行するには、社員全員の同意が必要となります。経営に関する事項においては社員の過半数、業務執行社員を選んでいる場合には業務執行社員の過半数の同意が必要です。
出資者同士で揉めている状態だと、上記のような意思決定が進まなくなってしまいます。株式会社であれば株主総会の議決権で強引にでも決定できることが、合同会社においては停滞につながってしまいかねません。
また利益の配分を決める場面においても、社員同士が対立してしまう恐れがあります。これを回避するには、あらかじめ定款に出資額に応じた利益配分などを記載しておくべきでしょう。
合同会社から株式会社に変更は可能?
いったん合同会社を設立したあと、社会的な信用度や資金調達のしやすさ、組織の拡大のしやすさなどさまざまな理由から株式会社に変更することは可能です。これを組織変更と呼びます。
合同会社が株式会社に組織変更するためには、以下のような手続きを踏まえる必要があります。
- 組織変更計画書を作成し社員全員の同意を得る
- 組織変更の公告を行う
- 株式会社の設立登記をする
- 組織変更の登記申請をする
- 税務署や地区町村、年金事務所などに組織を変更した旨の届出書を提出する
- 債権者保護手続きを行う
これらの過程で、官報への広告掲載費や、合同会社の解散・株式会社設立の登録免許税などが費用としてかかります。
合同会社を設立するのに必要なもの
合同会社を設立するのに必要なものは、主に以下の5つです。
- 代表社員の印鑑証明書と身分証
- 代表社員以外の身分証
- 法人印
- 資本金および振込口座
- 各種費用
順番に見ていきましょう。
代表社員の印鑑証明書と身分証
まず代表社員の印鑑証明書と身分証が必要になります。代表社員が複数いる場合には、その全員が自分の印鑑証明書と身分証を揃えなければいけません。
印鑑証明書は発行から3ヶ月以内のものである必要があります。身分証については、現住所が書かれたものである必要があり、以下のようなものが該当します。
- 運転免許証
- マイナンバーカード
- パスポート
- 住民票
- 保険証
- 外国人の場合は在留カード
どれを身分証として用いたとしても優劣はありません。用意しやすいものを選びましょう。
代表社員以外の身分証
代表社員以外の出資者も、全員が身分証をそろえる必要があります。身分証として使えるものは、前項と同様です。
出資者が法人である場合には、身分証として登記簿謄本(履歴事項全部証明書)と法人の印鑑証明書を1通ずつ用意する必要があります。
法人印
法人の印鑑(実印)を作成する必要があります。法人印は会社の法的な存在を象徴し、会社を代表するものです。会社設立に際しては、登記簿上で使用するための印鑑証明書と一緒に提出することが求められます。
通常の場合、法人印には会社名が彫られ、公的な文書に押印する際に使われます。法人印の製作には時間がかかることも多いため、会社設立の手続きに入る前にあらかじめ準備しておくことをおすすめします。
資本金および振込口座
資本金は会社設立時に出資者から集められる資金であり、会社の経済的な基盤を形成します。資本金の妥当な額は、会社の規模や業種によって異なるため一概にはいえません。しかしある程度の金額を積み上げておくことで、ある種の信頼を獲得しやすくなります。
法律が改正されたため、現在では資本金1円でも合同会社を作ることは可能です。しかし現実的には、資本金1円の会社と取引をしたがる相手はなかなか現れないであろうという問題があります。
資本金は合同会社を設立する際に、実際に拠出されている必要があります。あとからそろえるという約束だけでは成立しないことに注意してください。
資本金の振込口座としては、代表社員が日頃使っている個人口座が利用可能です。これから会社を設立しようという段階ではまだ会社の口座が存在し得ないため、代表社員の個人口座を使うのが一般的です。
登記の際には、通帳のコピーを法務局に提出することになります。
各種費用
合同会社の設立には、さまざまな費用が伴います。具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 印鑑証明書の取得費用
- 法人用の印鑑を作る実費
- 登録免許税
- 設立手続きを依頼する場合にはその報酬
これらの費用はそれほど大金ではありませんが、あらかじめ計算に入れておかないと予算をオーバーしてしまう恐れもあります。会社設立における必須のものとして、きちんと含めて考えておきましょう。
合同会社を設立する手順
合同会社を設立する手順は、おおむね以下のようになります。
- 会社の概要を決める
- 法人用の実印を作成する
- 定款を作成する
- 出資金(資本金)を払い込む
- 法務局で設立の登記をする
あくまでもおおまかな流れですが、これらをつかんでおけば、詳細部分はそれほど難しいことではありません。以下の解説を読んで、全体の流れを押さえておきましょう。
①会社の概要を決める
合同会社を設立するにあたってまずすべきなのは、会社の概要を決めることです。具体的には以下のようなものを決めなければいけません。
- 商号
- 所在地
- 資本金
- 会計年度
- 事業目的
- 社員の構成
商号は会社の名前であり、会社の顔となる大切な要素です。「事業の内容をイメージしやすい「会社の雰囲気をきちんと伝える」「理念がこもっている」など、さまざまな命名の仕方があります。個人事業主から法人化するのであれば、屋号そのまま引き継ぐのもやり方の一つでしょう。
所在地とは会社の住所のことです。あくまでも法的な設定であるため、実際に活動を行う場所とは異なっていても問題ありません。自宅を事務所とするのも、レンタルオフィスやバーチャルオフィスを利用するのもよいでしょう。
資本金も事前に決める必要があります。すでに解説した通り資本金1円でも合同会社は設立できますが、その場合には金融機関から融資を受けにくくなるなどのデメリットを受け入れる必要があるでしょう。
会計年度とは、決算書を作成するにあたっての1年の区切りのことです。たとえば「4月から来年3月まで」のように設定します。期間が1年を超えない限り、決算月は自由に決められます。
事業目的とは文字通り、何のために会社を立ち上げるかという目的のことです。目的というと漠然とした印象を受けますが、取引先や金融機関が会社を判断する際の材料となるので、事前にしっかり定めておくことが大切です。
社員の構成とは、合同会社においては誰が代表社員なのかといったことです。代表社員1名のみでほかに誰もいなくても、合同会社は設立できます。
②法人用の実印を作成する
次に、法人用の実印を作成します。この実印は法人としての行為を証明するためのもので、設立登記や重要な契約書に押印する際に使われます。社名が決まったらすぐに実印を作り、印鑑届出書も忘れないようにしてください。
なお法律が改正されたことにより、2023年7月現在では設立登記をオンラインで行う場合に印鑑は任意となっています。
書面申請の場合に印鑑が必要であることには変わりなく、また会社設立後に実印を使う場面は多いのが現実です。あとになって手間がかからないよう、会社設立のタイミングで作っておくことをおすすめします。
③定款を作成する
次に定款を作成します。定款とは会社をどのように運営していくかというルールをまとめたものであり、「会社の憲法」とも呼ばれています。
定款に記載するべき内容としては、商号・目的・所在地・設立者・出資者とその出資額・出資者の責任範囲・業務の執行方法・利益の分配方法などがあります。会社を運営していくにあたって定めておくべきことは、あらかじめ定款に記載しておきましょう。
合同会社の定款には、株主の構成や株式の譲渡制限などを記載する必要がないので、株式会社に比べると比較的簡単に作れます。また作成した定款を公証人に認証してもらう必要もありません。
定款に決まったフォーマットはありませんが、紙か電子定款かの2つの方法があります。都合に応じて決めましょう。
④出資金(資本金)を払い込む
定款の準備ができたら、出資者は出資金を払い込みます。このお金が後の資本金です。
この段階ではまだ会社の登記が完了していないので、会社名義の銀行口座は作れません。したがって資本金の振込先は出資者の個人口座となります。一般的によく使われるのは、代表社員となる予定の出資者の個人口座です。
会社法には資本金の金額についての制約はないので、資本金は1円でも問題ありません。しかしあまりに資本金が少ない場合、会社を立ち上げる前に必要な事務所の契約料や備品購入の資金が足りなくなる恐れがあります。
このあと行う登記申請において、資本金が確実に払い込まれたことを証明する書類として通帳のコピーが必要となります。あらかじめ用意しておきましょう。
⑤法務局で設立の登記をする
出資金の払込が終わったら、最後に法務局で会社の設立登記を行います。会社設立の登記には、以下のような添付書類が必要です。
- 定款
- 代表社員の印鑑登録証明書
- 資本金の払込を証明する書面
- 印鑑届出書
- 合同会社設立登記申請書
- 登録免許税の収入印紙
上記の添付書類以外にも、会社設立の仕方によっては「代表社員の決定書」や「代表社員の就任承諾書」、「本店所在地および資本金決定書」などが必要です。
登記の申請は出資者が行うのが原則ですが、司法書士などの代理人に委任することも認められています。代理人が登記をする場合には、上記の書類に加えて委任状が必要です。
登記申請のあと、不備がなければ1週間から10日程度で登記は完了し、登記申請日付で設立が完了となります。
合同会社の設立後に必要な手続き
合同会社の設立登記を済ませたあとにも、以下のような手続きが必要となります。
- 設立届を提出する
- 青色申告承認申請書を提出する
- 印鑑証明書の交付をしてもらう
- 登記簿謄本の交付をしてもらう
- 給与支払事務所等の開設届出書を提出する
- 源泉徴収の納期の特例の承認に関する申請書を提出する
- 労働保険関係の届出をする
- 社会保険の加入手続きをする
これらの手続きをすることは法的義務であり、また企業を円滑に運営させていくためにも重要なものです。順番に見ていきましょう。
設立届を提出する
会社が設立したことを、以下の3つの期間に届け出る必要があります。
- 税務署:設立後2ヶ月以内
- 都道府県税事務所:設立後1ヶ月以内
- 市区町村役場:設立後1ヶ月以内
税務署に設立届を提出する際には「定款のコピー」を用意する必要があります。
都道府県税事務所と市区町村役場へ提出する際には「定款のコピー」に加え「登記事項証明書」を用意する必要があります。
青色申告承認申請書を提出する
次に、税務に関わる手続きとして青色申告承認申請書の提出を行います。これは会社の経理に青色申告制度を適用するために税務署へ提出するものです。経理がしっかり行われていることが認められる場合、特定の控除や損失の繰り越し計上など、税制上のメリットを享受できます。
青色申告の承認を受けるためには、会社設立日から3ヶ月以内に申請書を提出する必要があります。
印鑑証明書の交付をしてもらう
個人と同じく法人にも印鑑証明書が必要となる場面があります。事務所を賃貸契約するときや、銀行から融資を受けるときなどです。特に創業間もない時期には印鑑証明書を使用するさまざまな取引がありがちなので、きちんと用意しておく必要があるでしょう。
印鑑証明書は法務局の窓口で交付してもらえます。登記申請書を提出する際、会社印の届出も同時に行っているので、印鑑カードが発行されているはずです。この印鑑カードを申請書と一緒に法務局の窓口に提出することで、印鑑証明書が発行されます。
登記簿謄本の交付をしてもらう
さらに登記簿謄本の交付も必要となります。登記簿謄本は、会社の基本的な情報(設立日、役員、出資金額など)が公式に記録されたものです。これを取得することで会社の公的情報を第三者に提供できるようになります。
登記簿謄本が必要になる場面としては、銀行から融資を受けるときや、補助金の申請をするときなどが挙げられます。
給与支払事務所等の開設届出書を提出する
役員や従業員に対して給与を支払う事務所を開設する際には、給与支払事務所等の開設届出書を税務署に提出する必要があります。提出期限は会社設立から1ヶ月以内です。
この届手書は給与所得の源泉徴収義務を履行するための手続きで、従業員を雇う際には必須となります。
源泉徴収の納期の特例の承認に関する申請書を提出する
源泉徴収税の納付は原則として月1回ですが、特例として年2回に変更できます。そのために必要となるのが「源泉徴収の納期の特例の承認に関する申請書」です。
ただし、従業員が常時10人未満であることが条件となります。
この申請書は前項の「給与支払事務所等の開設届出書」と関連するものなので、同時に申請してしまいましょう。
労働保険関係の届出をする
従業員を雇用する場合には、労働保険への加入手続きをする必要があります。労働保険は従業員の労働災害や失業リスクを補償するためのもので、「雇用保険」と「労災保険」の2つから構成されています。
労災保険は労働基準監督署に届け出るものです。従業員が業務において労働災害を受けた場合に必要な保険給付を行うために必要となります。
雇用保険はハローワークに対して届け出ます。従業員が失業したり休業したりした場合に給付を行うためのものです。
どちらも従業員が入社した翌日から10日以内に手続きをする必要があります。
社会保険の加入手続きをする
法人には、社会保険への加入手続きが義務づけられています。社会保険には「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」の3種類があり、年金事務所で加入手続きを行います。
提出の際に必要となる書類は、以下の3つです。
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者(異動)届
社会保険の加入手続きは、新たに従業員を採用した日から5日以内に済ませる必要があるので、急いで行いましょう。
合同会社設立前後におすすめの資金調達
合同会社の設立前後には、資金調達が不可欠です。自分たちで用意した資本金だけで、目的とする事業を100%行えるとは限りません。適切な資金調達方法を選ぶことで、設立前に描いていたビジョンに従った会社経営を行えるようになるでしょう。
ここでは「少人数私募債」「日本政策金融公庫」「各種の補助金・助成金」に分けて解説します。
少人数私募債
私募債とは社債の一種であり、金融機関を通さずに市場から直接資金を調達する手段です。不特定多数を相手に発行される債券を「公募債」、特定の少人数のみに限定して発行される債券を「私募債」と呼びます。
私募債のなかでも、少人数私募債は「6ヶ月の通算で50人未満」を対象として募集するものです。人数を限定する代わりに、投資家の性質を問わないことに特徴があります。必ずしも投資のプロである必要はありません。
発行総額は一般的に1億円未満ですが、1億円以上募集してはいけないわけではありません。ただし1億円以上の場合には、金融商品取引法にもとづくさまざまな義務が発生します。手軽に実施する場合には1億円未満がおすすめです。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、国が株式の100%を常時保有することが法律で義務付けられている金融機関です。国営ではありませんが、民間の株式会社とは性質が異なります。
日本政策金融公庫はさまざまなタイプの融資を展開しており、そのなかに中小企業事業向けの創業融資があります。低金利で長期間の借入が可能なため、会社設立初期の資金調達手段としては非常に有効です。
ただし融資を受けるためには、面談を受けて審査に通る必要があります。審査に通るためには、しっかりとした事業計画書を作り、どのように事業を育てていくのかを説得力のある形で説明できなければいけません。
各種の補助金・助成金
日本には、創業したばかりの合同会社でも利用できる補助金や助成金がいくつもあります。ここではそのうち利用しやすいものとして、以下の5つを紹介します。
- 創業助成金
- ものづくり補助金
- IT導入補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- キャリアアップ助成金
自分たちが立ち上げる会社の性質に合わせて、最適と思われるものから検討しましょう。
創業助成金
創業助成金は、日本各地の自治体で展開されている助成金です。詳細は地域によって大きく異なるので、自分の住んでいる地域について調べてみましょう。
たとえば東京都では、創業にかかる経費の一部を最大300万円まで支援してくれます。年2回募集が行われており、助成金の対象者は「東京都と公社が実施している創業支援事業を利用したことがある事業者」となっています。法人の場合には、法人登記を行ってから5年未満であることも必要です。
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、最大で3,000万円の支援を受けられる補助金です。「ものづくり」といっても必ずしも製造業に限られず、賃上げや働き方改革、設備投資などに対する支援を受けられます。
年に数回募集を行っており、「一般型」「グローバル展開型」「ビジネスモデル構築型」などに分かれています。
補助金を受けるには審査を受けなければいけません。採択率は60%程度ですが、不採択となっても再チャレンジは可能です。
参考:トップページ|ものづくり補助事業公式ホームページ ものづくり補助金総合サイト
IT導入補助金
IT導入補助金は、ITの導入や活用を推進するための補助金です。各種ソフトウェアやハードウェアの導入だけでなく、クラウドサービスの導入なども対象となっています。補助金の額は30万~450万円です。
募集は「A類型」「B類型」「デジタル化基盤導入類型」があります。それぞれに補助の対象が異なっているので、事前に確認しておきましょう。
また補助金を受けるためには、IT導入支援事業者との相談およびセキュリティ対策に取り組む制限が必要となります。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、中小企業の経営基盤強化を目指す補助金です。新たな販路の開拓などにかかる費用を補助してくれます。申請するには、商工会議所・商工会に事業支援計画書を発行してもらうことが必要です。
金額は50万~200万円で、機械設備や広報費など対象が幅広いのが特徴となっています。
募集は「通常枠」「インボイス枠」「賃金引き上げ枠」「卒業枠」「後継者育成枠」「創業枠」があります。創業間もない合同会社が利用するとよいのは、創業枠でしょう。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、非正規雇用者のキャリアアップ促進を図る助成金です。非正規雇用者を正社員として雇う場合や、処遇改善のための取り組みを実施する事業者が対象となります。
全部で7つのコースがあり、たとえば「正社員コース」で3%の賃金増額となる場合では、一人につき57万円が支給されます。
合同会社の設立に関するよくある質問
合同会社の設立についてのよくある質問に回答しました。
- 合同会社を作るのに必要なものは?
- 合同会社を設立するためには、定款や法人用の実印、代表者の印鑑証明書や身分証明書、そして出資金(資本金)が必要となります。
また設立登記を行うためには、法務局への手数料も必要です。司法書士などに登記を代理してもらう場合には、報酬も支払わなければいけません。
- 合同会社の設立日はいつになりますか?
- 合同会社の設立日は、法務局に設立の登記申請をした日となります。つまり登記申請書を法務局の窓口に提出した日です。
登記申請をしてからそれが受理されるまでには数日かかりますが、申請日が設立日となるため影響は受けません。
合同会社の設立で悩んだら税理士に相談しよう
合同会社の設立は株式会社と比べれば簡素ですが、それでもやはり用意すべきものや踏まえるべき手続きは複雑です。会社設立前後は本業の準備が忙しいため、設立のためのリソースを割くのが難しいという事情もあります。
合同会社の設立についてお悩みの方は、ぜひ弊社・サン共同税理士法人までお問い合わせください。
サン共同税理士法人では、初回相談が無料となっています。合同会社設立に関するあらゆるお悩みに対し、豊富なノウハウにもとづいて的確なアドバイスとサポートを提供させていただきます。
まとめ
合同会社の設立について、特徴から設立方法・利点や欠点・資金調達方法まで一通りの知識を解説しました。
合同会社は株式会社と比べて敷居の低い形態であり、個人事業主や小規模事業者が現在のスタイルを保ったまま法人化するにはぴったりの選択肢であるといえます。しかし設立のためには、それらに複雑な手続きと法律上の知識が必要です。
設立に向けて具体的なステップを踏み出す際には、税理士など専門家の助けを借りることも視野に入れるとよいでしょう。
本記事を参考にして、合同会社の設立に際して迷いなくことを進めるようになっておきましょう。
2008年5月よりデロイト トーマツ税理士法人GES部門に勤務し、海外拠点を多く持つ日本・海外企業に対する国際人事異動に関するアドバイザリー業務などに従事。
2011年11月、ビジネスタックスサービス部門に異動し、約9年間勤務。マネジャーとして国内上場企業や外資系企業の税務コンサルティング業務及び税務コンプライアンス業務、税務顧問及び業務効率化提案などを行ってきた。
2020年12月、約12年間マネジャーとして勤務したデロイト トーマツ税理士法人を退職。
2021年1月にサン共同税理士法人に参画し、同月、横浜オフィス所長に就任。