個人事業主や法人は、毎年昨年の売上やかかった経費などを記帳して確定申告・決算申告を行う必要があります。
その際、税金の負担を少なくするために売上を除外してしまったり、架空の経費を計上し、虚偽の申告をすることを「脱税」といいます。
脱税と間違われやすいものとして「申告漏れ」や「所得隠し」などといった言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。
本コラムでは、それぞれの言葉が持つ意味の違いや、実際の事例を通して脱税がバレたときのリスクについて解説していきます。
※この記事は、弊社のコンテンツガイドラインに基づき作成されています。
申告漏れが起きないか心配、適切な会計・経理処理が自分だけでは難しい場合は、税務調査の知識がある税理士に相談するのも一つの選択肢です。
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目次
脱税とは?
脱税とは、売上を隠したり業務とは関係のない領収書を経費として計上したりして、不法に税負担を軽減させる行為のことを指します。
税金は、事業の売上から経費などを差し引いた金額をもとに計算していくことが基本です。
そのため脱税の手口としては、売上を減らす方法もしくは経費を増やす方法の2種類が存在しています。
たとえば、二重帳簿の作成や帳簿への虚偽の記載、請求書の改ざんなどが脱税の手法として挙げられます。
「申告漏れ」「所得隠し」「脱税」の違い
脱税と似た言葉に「申告漏れ」や「所得隠し」というものがあります。
それぞれの違いは非常にわかりにくいので、ここでしっかりと区別していきましょう。
「申告漏れ」は意図的な行為ではない
申告漏れは、計算ミスや計上ミスにより「うっかり」所得の申告をミスしてしまうことを指します。
また、申告の手続きが遅れてしまったり、申告が必要なことを知らなかったケースも、この申告漏れにあたります。
税負担を減らそうという意図がない点が所得隠しと大きく異なるところですが、だからといって納税を見逃してもらえるわけではありません。
所得隠しよりもペナルティは軽めになっていますが、追加で課税されるケースが多いです。
「所得隠し」は意図的に売上を隠すことで「脱税」につながる
所得隠しは、売上の隠蔽や架空の経費、架空の人件費を計上することで、意図的に税負担を減らす行為を指します。
故意に所得を低く申告する悪質性から、申告漏れよりも重いペナルティが科される傾向にあります。
脱税との違いに明確な線引はありませんが、より悪質で検察庁に告発されているものを「脱税」として扱うケースが多いです。
「脱税」と「節税」や「租税回避」の違い
全く異なる意味を持ちますが、「節税」や「租税回避」という言葉も脱税とセットで使われることの多い言葉です。
正しく区別するために、それぞれの違いについてみていきましょう。
「節税」は合法的な税金対策
節税とは、法の範囲内で税負担を減らすための対策を取ることを指します。
たとえば、事業に使った支出を必要経費として計上するために領収書をもらったり、税法上の特例や控除などを活用することを節税と言います。
節税は合法な税金対策で、正しく行えば罪に問われることは一切ありません。
「租税回避」は課税要件をくぐり抜ける税金対策
租税回避は、税法が想定していない方法によって税負担を軽減する方法を指します。
イメージしにくいかもしれませんが、お金を税率の低い国に移す方法が代表的な例として有名です。
一見罰せられそうな行為ですが、法律で想定されていない行為であれば課税することはできません。
そのため、租税回避をすることで犯罪に問われたりペナルティを課せられたりすることはないのです。
今後法律の改正などで規制されていく可能性はありますが、現時点では節税の範疇にある行為だとされています。
なぜ脱税はバレるのか
売上や領収書をごまかして行われる脱税ですが、どうしてバレて罰せられてしまうのでしょうか。
脱税がバレてしまうのには、3つの理由があります。
資産状況
資産状況に不自然な点がある場合、そこから脱税がバレてしまうことがあります。
たとえば、会社の口座や取引を行っている口座などから不自然な金額の入出金があると脱税が疑われます。
他にも、脱税をしたお金で不動産を購入した場合、不動産を購入した事実は法務局から税務署に伝わります。
そこで、収入と支出のバランスがおかしいと気づき、脱税の可能性が浮上します。
関係者からの告発・通報
個人であれば周囲からの告発、法人であれば従業員からの内部告発や通報も、脱税がバレてしまう要因になります。
令和4年度の検察庁への告発件数は103件という報告があり、追徴課税総額が100億円程度ありました。調査結果から言っても、1件あたり1億円を超えると逮捕されてしまうと言えると思います。
国税庁には課税・徴収漏れに関する情報提供の窓口が用意されており、脱税の通報を誰でも行えるようになっています。
内部告発で得た情報を元に税務署・国税庁は調査を行い、脱税の疑いが高いと判断されると、税務調査の対象になります。
通報者のプライバシーは厳重に守られるので、通報者を特定することはできません。
参考:
国税庁 課税・徴収漏れに関する情報の提供
国税庁 令和4年度 査察の概要
メディア露出・SNSでの発信
派手な私生活をメディアで紹介したり、SNSで自ら発信した結果、国税局にマークされて脱税が発覚するとも言われています。
SNSの投稿内容から税務調査が行われ、脱税が発覚した事件では「青汁王子」の事件が記憶に新しいかと思います。
「青汁王子」は、青汁などを扱う健康食品外車を経営しており、2年に渡って架空の広告宣伝費を計上して所得を隠し、法人税と消費税の脱税をした容疑で逮捕されました。
彼は、豪華なマンションでの生活や所有する高級外車、競走馬、高級時計などの装飾品、などの贅沢な私生活をメディアで露出したり、SNSにアップしていました。
メディアやSNSを通して、納税額と納税者の私生活の様子を簡単に比較することができるようになり、その投稿をみた調査官が疑問を抱けば、調査対象になることもありうるでしょう。
税務調査
脱税は主に、税務署や国税局査察部(マルサ)の調査によって発覚します。
税務署が行う税務調査は中小企業や個人事業主に対して実施されるもので、後者の国税局による査察調査は悪質な脱税行為や金額が大きいケースに行われるものです。
税務署や国税局は脱税を見破るプロなので、脱税をしている場合は100%バレてしまうといっても過言ではありません。
万が一、脱税をしていなくても帳簿の不備などを指摘されることもあるので、個人事業主であっても税務調査の際は税理士に立ち会ってもらうと安心でしょう。
脱税がバレた際のリスク
事業規模を問わず個人事業主でも、法人でも脱税がバレるとペナルティや社会的な信用を失うリスクがあります。
記憶に新しいところでは、YouTuberが確定申告をせずに重加算税や追徴課税を課されたり、医薬品製造会社が複数の取引先からの代金を申告していない口座に振り込ませて3億3800万円の所得を隠していたニュースなどがあります。
もしも脱税をしてしまったら、どんなペナルティやリスクが待ち受けているのでしょうか。
追徴課税の支払い
「申告漏れ」の加算税
うっかりや勘違いで脱税をしてしまった「申告漏れ」の場合は、以下の3つの加算税が科されます。
●過少申告加算税
本来支払う税よりも少ない額で申告した際に科される税金です。課税割合は10%で、指摘を受ける前に修正申告をすれば、5%の減額が受けられます。[注1]
●無申告加算税
定められた申告期限までに申告しなかったときに科される税金です。課税割合は原則15%ですが、一定の要件を満たせば免除されることもあります。
延滞や納付の加算税
●延滞税
納付ずべき税金を期限までの収めなかったときに科される税金です。期限の翌日から課税が開始され、2ヶ月を経過する日までは年7.3%、それ以降は年14.6%もの高額な税金が科されます。[注2]
●不納付加算税
源泉所得税を期限までに納付しなかった場合に原則10%科される税金です。
自主的に納付すれば5%が加算されます。
●利子税
税金を一括で収めることができない場合、未納のものに対して課税される税です。
[注1]財務省 加算税の概要
[注2]国税庁 延滞税について
「所得隠し」および「脱税」の加算税
所得隠しや脱税など、明確な意図を持って売上や経費をごまかした場合、申告漏れよりも重いペナルティが科されることになります。
申告漏れの場合に加算される税である「過少申告加算税」「無申告加算税」「延滞税」に加え、「重加算税」と呼ばれる税金が加算されます。
●重加算税
重加算税は、納税額を意図的に隠蔽・偽装をしたり無申告や過少申告を行なったりしたりときに科される税金です。
とくに税率は高く、35~40%の課税割合に設定されています。
それだけ所得隠しや脱税の罪は重く捉えられており、厳重に対処されているのです。
悪質な場合は刑事罰も
脱税の金額があまりに大きい場合や悪質性が高い場合、加算税によるペナルティだけではなく刑事罰が科されるケースがあるため注意が必要です。
法人税法の159条によると「偽りその他不正の行為によって納税を免れたり還付を受けたりした場合は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と定められています。[注3]
また、不正行為がなくても意図的に申告をしなかったり納税を免れようとしたりした場合は「無申告脱犯」となり「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と刑罰が定められています。
このように脱税犯に科される刑事罰は、加算税のペナルティとは別物として扱われます。
「お金を払ったから刑事罰が免除される」ということはないので、たとえ個人事業主でも脱税に関しては十分気をつける必要があるのです。
実際にあった刑事罰の事例
刑事罰と言われても、一般の方にとっては馴染みがないものです。
ゆえに、もしも脱税がバレたときに、どんなことになってしまうのかをイメージしにくいかもしれません。
そこで、ここからは実際にあった刑事罰の事例について紹介していきます。
1億8千万円の脱税で有罪判決
2019年、青汁王子の会社の脱税事例はメディアで大きく取り上げられ、記憶に新しいかと思います。
青汁などを扱う健康食品販売会社が2015年、2017年の2期に渡り、架空の広告宣伝費を計上するなどして所得を隠したことに対して有罪判決が下されました。
法人税約1億4,000万円を免れたほか、2014年10月-2015年9月と2016年10月-2017年9月の消費税約4,000万円を脱税したことがわかっています。
東京地方裁判所は執行猶予4年(求刑懲役2年)の有罪判決を言い渡しました。
法人の代表である青汁王子のみならず、脱税に関わった取引先の会社役員や関与した従業員も法人税法違反幇助(ほうじょ)の罪で逮捕されています。
2,600万円の脱税で刑事告発
2018年、乗馬クラブの運営会社が2014年~2016年の2年間に渡って確定申告せずに脱税したことに対して有罪判決が下されました。
この所得隠しにより、消費税と地方消費税を合計2,673万円脱税したことがわかっています。
東京国税庁が告発し、千葉地検特別刑事部が運営会社の代表を逮捕しました。
このように、脱税は直近のものだけではなく過去の分まで遡って調べられるケースが多いです。
もしも過去に不正な申告をしている場合「確定申告をしたときに何も言われなかったから大丈夫」と思わずに、修正申告をしておくことが非常に大切です。
8,800万円の脱税で逮捕
2011年には、脱税の容疑で逮捕者が出た事件が起きています。
脱税をしたのは、茨城県で解体工事業を運営している会社の代表取締役。
2年間脱税を繰り返し悪質性が高いと判断され、逮捕に至りました。
脱税額は、実に8,791万円にも上っていることがわかっています。
このように、脱税事件で実際に逮捕者が出ている事件は決して珍しくはありません。
個人事業主規模で逮捕につながることはなかなか考えられませんが、場合によっては思い刑罰が科されるリスクがあることもしっかりと留意しておくことが大切です。
社会的信用の失墜
脱税をしてしまった・逮捕されてしまった場合には、判決内容や刑事罰の内容、会社名や代表者名がメディアで報道されてしまいます。
報道内容によっては社会的な信用を失い、取引先から取引停止を通告される、金融機関からの融資が受けられなくなる、事業に必要な許認可の更新ができなくなる、などの影響がでてきます。
事業存続に影響
社会的な信用の失墜に伴う、株価の下落や、取引の停止、金融機関からの融資が受けられなくなることに加え追徴課税や、重加算税など多額の税金の納付が待っています。
税金は、自己破産をしても非免責債券といって、債務が免除がされないため、脱税してしまった際のペナルティは絶対に支払わなくてはなりません。
個人事業主でも脱税をするとリスクが大きい
脱税や所得隠し、申告漏れをしてしまうと、加算税を追徴されるだけではなく刑事罰に発展してしまうリスクがあります。
何より、脱税は大きく信頼性を下げてしまう要因になってしまいます。
個人事業主は税務調査される確率は低いですが、万が一のときのために日頃から正しく申告・納税をするようにしましょう。
場合によっては、節税だと思って行なった経理処理が脱税とみなされてしまうこともあります。
もしも経理業務や確定申告に不安を抱いているのであれば、税理士に依頼して手続きを代行してもらうと安心でしょう。
脱税にならずに節税をするための3つの対策
脱税を防ぎ、自分や会社にあった節税方法を探すにはどのようにしたら良いのでしょうか?
安全な3つの対策についてご説明いたします。
適切な経理処理を行う
独自の解釈で経理業務や節税対策を行ってしまうと、不適切な申告を行い、税負担が増えたり、罰則を受けてしまうリスクが高まります。
・不適切な経理が行われていないようなフローの構築
・社内の取引がタイムリーに確認できるクラウド会計の導入
企業の入出金や帳簿への記録、請求書・領収書の発行などがタイムリーに行えるクラウド会計の導入を行い、取引の明瞭化を図ることで不適切な経理を早めに検知することができます。
個人や企業の状況に合わせた節税提案を受ける
毎年改訂される税に関する法律は複雑で、経理担当者の方が最新動向を把握しながら節税方法を検討するのは極めて困難です。
税務の専門家かつ、様々な企業との取引実績のある税理士に相談することで、最適な節税提案を受けることができます。
適切な節税方法がわからない場合は、税務調査の経験のある税理士に相談するのも一つの選択肢です。
サン共同税理士法人では、ご契約後、財務報告書を通して最適な節税をご提案いたします。
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税務調査に対応できる税理士に依頼する
税務調査に対応できる税理士に依頼することで、日々の経理の疑問点についても相談行えます。
また、もしもの時の税務調査の際に、個人や企業の今までの経理に沿った最適なアドバイスを受けることができます。
脱税に関するよくある質問
脱税について教えてください
脱税とは、売上を隠したり業務とは関係のない領収書を経費として計上したりして、不法に税負担を軽減させる行為のことを指します。税金は、事業の売上から経費などを差し引いた金額をもとに計算していくことが基本です。
申告漏れについて教えてください
申告漏れは、計算ミスや計上ミスにより「うっかり」所得の申告をミスしてしまうことを指します。
また申告の手続きが遅れてしまったケースや、申告が必要なことを知らなかったケースも、この申告漏れにあたります。
租税回避について教えてください
租税回避は、税法が想定していない方法によって税負担を軽減する方法を指します。
タックスヘイブンといわれる、お金を税率の低い国や完全に免除される国に移す方法が代表的な例として有名です。
脱税を告発された場合、どのように事件に発展するのでしょうか?
刑事処分に至るには、以下の手順で進みます。
1. 国税局や税務署からの質問などの机上調査
2. 国税庁や税務署による税務調査
3. 国税国査察部による査察調査
4. 検察庁への告発
5. 起訴
6. 刑事裁判
「机上調査」は、申告書の記載誤りや質問などを電話で調査を行う方法です。
税務調査の後であれば無申告加算税が15%発生しますが、この段階で自主的に修正申告を行えば、5%に軽減されます。
「税務調査」は、事前に日程調整を行い、任意での調査を行います。税理士なども立ち会うことができます。
「査察調査」は、この会社が怪しい・脱税していると思われる場合に行われる日程調整ができない強制的な調査調査です。
突然、国税局の担当者が来て、引き出しやソファーの裏など全てひっくり返して証拠を集められるといわれています。
申告漏れが起きないか心配、適切な会計・経理処理が自分だけでは難しい場合は税務調査の知識のある税理士に相談するのも一つの選択肢です。
サン共同税理士法人では、適切な会計・経理処理を行うためのご相談をオンラインで承っています。下記からお問い合わせください。
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2006年 税理士法人トーマツ(現デロイトトーマツ税理士法人)入社
2016年 サン共同税理士法人に代表社員として参画
今日、経営環境は不断に変化し、それに対応して税制・会計基準も複雑化してきております。そのため、そうした動向を絶えずキャッチアップし続け、お客様に常に最高水準のサービスを提供するスペシャリストであり続けたいと願いそれを実行し続けていることを自負しております。上場企業をはじめとしたクライアント様の要求水準は高くなる一方ですが、圧倒的に信頼されるスペシャリストとして、深い知的研鑽を積み、専門的な実務経験に裏打ちされた顧客本位のサービスをご提供し続けることを信念に、邁進して参りたいと思っております。